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本SSはグロテスクな部分がありますので、ご注意ください。 リリカルVSプレデター (前編) 広大な宇宙には人類が知り及ばぬモノが数多と存在する。 あるいは未知の異次元世界であり、あるいは思念のみで形成された意識体であり……そしてあるいは人類以外の知的生命体。 そう、“彼”は正に人類以外の知的生命体の種族だった。 爬虫類系生物から進化した彼の種族には、他の知的生命体にはない野蛮で常軌を逸した風習がある。 それは“狩猟”、それも生存の為の捕食としての狩ではない。それは生き甲斐とさえ呼べるほどの純然たる闘争欲求を満たす為だけのモノ、ただ殺す為の殺し。 彼の種は永き時に渡りこの狩りを脈々と行ってきた、あらゆる惑星のあらゆる生命体を相手に。 そして今回彼が向かったのはとある惑星、人型哺乳類種の支配する星だった。 彼は鈍色に輝く小型宇宙艇の中から目標の惑星を見た。眼下に広がる蒼は海の色、生命を育む海のものである。 だが彼の視界には鮮やかな蒼など映らない、当たり前だ彼の種族の可視光線に青色は見えないのだから。 彼は赤だらけの視界で目の前の星を見つめる。 この惑星の形態は一般的な通常生命体が生存している星、特徴として魔法体系の技術が進歩しているらしい。 データによれば他世界へ超空間を用いて移動する程度には科学技術もあるようだ、まあそれなりに知性はある。 彼が今度の猟場にここを選んだのはまったくの気紛れだった、そして胸中で『手ごたえのある獲物がいると良い』と密かに思う。 惑星の情報や装備を確認すると、彼は宇宙艇のコントロールパネルに大気圏突入の為のコードを打ち込んだ。 大気圏に突入した船が向かう先はこの星の中でも取り分け大きな都市“クラナガン”の上空。 こうして、ミッドチルダに最強の狩人が舞い降りた。 △ 閑静な住宅街、その中の一軒の家に人だかりができている。 近所の住人にマスコミ等の報道関係者、多くの野次馬が平和な町で起こった血生臭い事件見たさに集まったのだ。 家の中には捜査を担当している陸士108部隊が、事件現場を調査している。 そして108部隊に所属する少女、ギンガ・ナカジマは鼻腔を付く凄まじい悪臭に耐え難い吐き気を覚えていた。 それは、たっぷりの血臭に外にぶち撒けられた内臓が長時間放置されて腐った臭い。 屠殺場で動物を殺し解体したような壮絶な異臭だった。 だが事件を捜査する立場上、臭い如きに屈するわけにはいかない。 ギンガは意を決して事件の被害者の遺体がある部屋へと足を踏み入れた。 そして、朝食を食べ過ぎた事をこれでもかと後悔する。 「ウプッ!」 胃から込み上げてくる酸味を含んだ味が口内に広がる、嘔吐を耐えるのがこれほど苦痛だと感じた事は生まれてこの方無かった。 口元をハンカチで押さえて必死に喉を上がってくる嘔吐物を押さえ込む。 目元には幾筋かの涙も流れている、そんな彼女の肩に上司の男性がそっと手を置いた。 陸士108部隊捜査主任ラッド・カルタス、ギンガより遥かに事件慣れした彼は凄惨な現場の様にも顔色を変えず彼女に心配そうに声をかけた。 「大丈夫か? 無理に見る必要はないんだぞ?」 「ええ、大丈夫です……これくらいでへばってられませんから」 青い顔でそう言っても説得力などなかったが、ナカジマ家の頑固さは部隊長のゲンヤとの付き合いで嫌と言うほど知っていた。 恐らく自分がいくら言ってもギンガは現場をしっかり検分するだろう、彼女のその様子にカルタスはいくらか諦念をこめた溜息を吐く。 「分かった、止めはしないが無理はするなよ?」 「はい」 自分の身を案じてくれている彼の言葉に、ギンガは青い顔で儚げな微笑を浮かべた。 だがカルタスは優しい言葉だけでなく、しっかり捜査主任としての注意も忘れなかった。 「それと、吐くならなるべく部屋の隅でやってくれ。せっかくの現場が汚れる」 「うう……はい」 「では行くぞ、遺体は向こうだ」 カルタスはそう言うと、ギンガを先導するように歩き出す。そして、凄まじい死臭の元である部屋の奥に行けばそこには地獄絵図が広がっていた。 目の前の光景にギンガの中で吐き気と嫌悪感と恐怖が最高潮を迎える。口の中に満ちた酸っぱい味を抑えるのはもう我慢の限界だった。 「ギンガ、吐くなら向こうだ」 彼女の様子を察したカルタスは壁の方を指差す。調査するべき物の無い壁際ならば捜査官の嘔吐物がいくらかあっても問題ないという判断での指示だ。 ギンガは彼に従い、壁の方に駆けてそのまま胃の中身をぶちまけた。 普段は冷静沈着な彼女の乙女らしい様子にカルタスはいくらか苦笑しつつ、そっとハンカチを渡す。 「だから無理するなと言ったろ?」 「す……すいません……」 「良いからこれで拭いて、せっかくの綺麗な顔が台無しだ」 「はい……ありがとうございます……」 ギンガは彼から受け取ったハンカチで口元を拭い、涙を零しながら頭を下げた。 近代ベルカ式の使い手で、108部隊有数の猛者である彼女の弱弱しい姿に思わずカルタスの口元に苦笑が宿る。 「まあ、無理もないか……こんな現場じゃ……」 ギンガにも聞こえない程度の声でそう漏らしながら振り向けば、そこにはこの事件の被害者の遺体があった。 それはワイヤーで逆さに吊るし上げられており、全身の皮を剥がれていた。 遺体は、本来人体を覆うべき外皮を全て剥ぎ落とされており皮下組織の下にある筋繊維が剥き出しになっている。 外皮を剥がれた屍はさらに腹部を切り裂かれて内臓をぶち撒けられ、滴る赤で大きな血溜まりと臓物の山が形成していた。 悪臭の元はこの腐った内臓、そこには蝿がたかり蛆が湧いている。鑑識班が死亡状況を調べる為に採取したと言うのにまだ屍肉食の虫共は骸を貪っていた。 そしてもう一箇所目を引く場所、それが頭部だった。 遺体の頭は普段あるべき形、頭蓋骨の持つ丸みを失っている。それもその筈だ、屍からは頭蓋骨が抜き去られていたのだから。 それは見事な手際だった、遺体の頭部が形状をある程度保ったまま中身の頭蓋だけ取り除かれているのだ。 後頭部から顔面の前面までパックリと開かれた鋭利な割れ目からは空虚な闇だけが広がっている。 正に地獄絵図としか形容できない凄惨な状態。例えギンガでなくとも嘔吐を催さずにはいられないだろう。 凄惨極まる悪鬼の所業、しかしこんな事件がクラナガンで起こるのは初めてではない。 「これで20件目か……いったい誰がこんな事をしているんだ?」 △ 夜のネオンが光る時刻、時空管理局ミッドチルダ地上本部施設の一角、局員がよく利用するカフェに一人の女性がいた。 燃えるような鮮やかな緋色の髪をポニーテールに結い、女性的な美しさに満ちたたおやかな肢体を茶色の管理局制服で包んだ美女。 この女性こそ、地上本部首都航空隊に所属する夜天の守護騎士シグナムである。 シグナムはテーブル席に腰掛け、新聞片手にホットコーヒーで満ちたカップを傾けていた。 休憩時間にここでブラックコーヒーを飲みながらゆっくりと過ごすのは彼女の日課である。 今日もそうしてコーヒーの味を楽しみながら、紙面で報じられている昨今の事件などに目を通していた。 そんな彼女に一人の男の影が近寄り、テーブルの隣の席を引いた。 「隣、良いっすか?」 「ああ、構わんぞ」 茶髪の青年に彼女はそう答える、青年は了承を得ると隣に腰掛けて彼女と同じブラックコーヒーを注文した。 彼は同じ部隊に所属するシグナムの部下ヴァイス・グランセニック、狙撃手兼ヘリパイロット。 入隊時からシグナムの下に就き、彼女の事を“姐さん”と呼び慕う好青年である。 こうして彼と暇な時間を共にするのも良くある光景だ。 ヴァイスはウェイターが持って来たコーヒーを啜りながら、彼女の読んでいる新聞を横合いから眺めた。 「何か面白い事でも載ってます?」 「ん? ああ、最近クラナガンで多発している連続殺人事件の事がな……」 クラナガン魔道師連続殺人事件、それはここ数ヶ月間クラナガンを恐怖のどん底に落としている怪事件だった。 殺されるのは決まってデバイスを持った者、それも屈強な武装局員ばかりが被害にあっている。 そして被害者の遺体は皆、逆さに吊るされたうえに生皮を剥がれ内臓を抜かれ頭蓋を奪われ、凄惨極まる状態になっているらしい。 起きた事件は20件以上、被害者は30人以上にも上る。 事件を担当している陸士108部隊に所属するギンガの話では“この世のものとも思えぬ所業”だそうだ。 事件現場周辺で“透明の怪物を見た”とか“悪魔が人を殺していた”等の目撃証言が度々報告される事から、俗な雑誌では悪魔の仕業とすら書かれていた。 また奇妙な事に、現場近くに居合わせた女性や子供そして重篤な病気を疾病した者は誰一人として殺されていないのも事件の特徴だった。 「また起きたみたいっすね、その事件」 「ああ」 「やっぱテロリストとか反管理体制主義者の仕業っすかねぇ」 「いや、それはないだろう。それならば犯行声明が出る」 「じゃあ異常者とか?」 「かもな……」 二人がそんな会話をしているところに、突如としてデバイスからけたたましいアラーム音が鳴り響く。 デバイスを取り出してみれば緊急招集のアラートが表示されている、どうやらコーヒーブレイクは終わりらしい。 「さて、休憩時間は終わりのようだ」 「みたいっすね」 二人はそう言うと席を立ち、部隊のヘリ格納庫へと向かった。この日最強最悪の狩人に出会うとも知らずに。 △ 夜の闇の中で煌めく光があった。 クラナガンの都市部から幾らか離れた場所にある廃棄都市区画、無数の朽ち果てたビルがあるそこで数多の火の花が咲いているのだ。 あるいは銃口から咲き誇る銃火(マズルブラスト)であり、あるいは曳光弾が闇を切り裂く閃光であり、あるいは魔力弾が作り出す光だった。 それはある犯罪者集団、先ほど大規模な強盗事件を起こした無法者共と彼らを逮捕する為の来た武装隊との戦いである。 強盗共は銃火器で武装した者が30、デバイスで武装した者が10という大所帯。そのうえ全員が相応の訓練や実戦を積んでいるらしい。 手練れの武装隊も攻めきれずに苦戦しているようだった。 「オラオラオラ!! 死にさらせ糞がぁっ!!」 ツバを撒き散らして叫びながら強盗団の一人が遮蔽物から身体を出して銃を乱射。大口径の軽機関銃の銃口からオレンジ色の銃火と共に大量の弾丸が吐き出される。 撃ち出された弾丸の内何発かはフルオートの反動で標的となった武装局員を外れて周囲のコンクリート壁にめり込んだが、大半は狙い通りにきっちりと命中した。 武装局員の展開した防御障壁を高硬度の金属製弾芯を有して高貫通能力を持つライフル弾が削っていき、十発目にして完全に破壊。 バリアジャケットで覆われた武装局員の身体にめり込んだ。 「がはぁっ!」 叫びと共に吐血、内臓深くにこそ達しなかったものの銃弾のもたらす人体破壊は絶大だった。 たたらを踏んだ後に、被弾した武装局員の男はその場で倒れる。激戦地で倒れた彼は正に格好の的。 血に餓えた犯罪者共はその狂った照星(サイト)の照準で狙いを付けた。 「マイケル!!」 絶体絶命の仲間に武装局員の一人が危険を顧みず、遮蔽物にしていた廃車の陰から顔を出して叫んだ。 引き金が絞られ、銃弾の雷管が叩かれて薬莢に詰められた遅燃性火薬が燃焼するまで一刹那。 人の命が無造作に奪われる寸前、その時一つの影が舞い踊った。 瞬間けたたましい音と共に炸裂する銃声、金色の薬莢を地面に転がしながら硝煙と銃弾の狂想曲を織り成す。 絶命必至の過剰殺傷、着弾の衝撃で巻き上がる土煙、勝利の愉悦に銃撃を行った男は下卑た汚い笑いを浮かべて口元にだらしなく唾液まで垂らした。 だが、煙が晴れた時現れたのはミンチになった死体ではなく燃えるような緋色の髪を揺らした美女の姿。 剣を片手に立つその姿はさながら戦場に舞い降りた戦の女神か、形容し難い美しさだった。 「ナニ!?」 男の口から思わずそんな呟きが漏れる。突然割って入って女が現れたのもあるが、これだけの銃弾を受けたというのに相手が無傷であるという事実が衝撃を与えた。 彼女はただ正面から銃弾を受け止めたのではない、銃弾の軌道を反らす為に傾斜を付けた高硬度障壁を多重展開して受け流したのだ。 よっぽど腕の立つ魔道師でもなければこんな芸当はできないだろう。故に男に与えた驚愕は深い。 男は手にした軽機関銃では相手を破れぬと即座に判断、背に担いでいた個人携帯用の使い捨て式ロケットランチャーに手を伸ばした。 「遅い!!」 女性は叫ぶと同時に跳躍、飛行魔法を行使して相手に高速で接近する。既に男は彼女の間合いの内にいた。 鮮やかな緋色の髪を揺らし、宙を舞いながら横薙ぎに刃を振るう様は幻想的な美しさすら有している。 そしてランチャーを発射する為に安全ピンを外す暇すら与えられず、男に彼女の振るった炎の刃が一閃。 男の意識は燃える刃で闇の底へと刈り落とされる。手にした銃火器を地に落としながら、男の身体は倒れ付した。 「安心しろ、殺しはせん」 彼女はそう言いながら、剣に這わせた魔力の炎を払う。 武装局員の仕事は犯人を殺傷する事でなく無力化して捕縛する事だ、絶命せぬように手心は加える。 そんな彼女に、先ほど銃弾に倒れた武装局員を介抱しながら隊員が声をかけた。 「すいませんシグナム隊長」 「気にするな、それより早くマイヤーズを医療班の元へ連れて行け」 「ですが、隊長だけ残してはいけません」 「ん? 誰が一人と言った?」 部下の言葉にシグナムが答えた刹那、高出力の魔力弾が発射される音が鳴り響く。 何が起こったのかと周囲を見渡せば、100メートルほど離れたビルの屋上で倒れる影が一つ。 それはシグナム達にロケットランチャーの狙いを定めていた強盗団の一人だった。 「ヴァイスがいる」 彼女がそう言って空に顔を向ければ、ヘリの後部ハッチから狙撃銃の銃身を覗かせてこちらを見下ろす狙撃手が一人いた。 ヴァイスは200メートル以上離れた場所をホバリングし空中静止しているヘリから見事な狙撃を見せた、正にエース級の腕前である。 「私はヴァイスと一緒に先行した部隊と合流する、早く撤退しろ」 「は、はい! お気をつけて」 負傷した仲間を担いで撤退する部下に一言残し、シグナムは先行して強盗団と戦っている部隊の元へと駆け出した。 手にした剣に炎を纏わせポニーテールに結われた緋色の髪をたなびかせて美しき女騎士がさらに激しい戦場へ向かう。 そして、ビルの一角からそんな彼女を見つめる狩人が一人。 それはまるで陽炎だった、特殊なフィールド発生させて光を曲げて自身の姿を隠す擬態能力、光学迷彩によるステルス化である。 彼のヘルメットの機能が赤外線によって熱分布を映像化したサーモグラフィによってシグナムの姿を映し出す。 狩人はその目で獲物に狙いを定めた、絶世の美女にして勇ましい女騎士を。 今しがた離れた場所で戦闘を行っている者達も含めて、どうやら今夜の狩りは賑やかになりそうだ。 異星より来た狩人は予想よりも遥かに多くそして狩り甲斐のありそうな獲物に胸を熱く滾らせた。 続く。 目次へ 次へ
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デジモン・ザ・リリカルS F 第二話 「少女と龍」 キャロとアグモン、フリードは、ジャングルの中を歩いていた。一番近い街でも十数キロ先という場所に何故いるかというとそこしか、街に行く道はなかっただけであった。 「ハァハァ疲れたね」 「オイラもキツイよ、姉御ぉ」 「もう少し、頑張ろう。日が暮れるまでにジャングルを抜けなきゃ」 とは言ったものの、たかだか、10歳の少女の体力である。既に限界は越えている。それに食料などもなく、三日間飲まず食わずだったのだ。数百メートルいくと倒れてしまった。 「姉御!」 アグモンはそう言うとキャロに駆けよった。フリードも心配そうにキャロを見つめる。アグモンが額に触れると呟いた。 「凄い熱だ、どうしよう…、近くに街はないし…」 「キュウゥ~!」 「え、なになに、『近くに洞窟がある』だって!でかした、フリード!」 そう言うとアグモンはキャロをおぶって、その洞窟へと歩いていった。数十メートル行くと、そこには、フリードの言った通り、洞窟があった。アグモンは恐る恐る中に入っていった。 そこは、誰か住んでいるようで、洞窟の壁には服と見れるものがあり、また大量の果物やキノコなどが置いてあり床にはベッドのような物があった。 その脇には、良くは見えないが写真があった。とにかく、キャロを寝かせようと思った時、後ろから声が響いた。 「あなた達は、だ~れ?」 「誰だろうね?」 振り向くとそこには赤い龍型デジモンと幼い少女がいた。 少女はライトブラウンの髪にリボンを二つ結び、その右目は翡翠のごとく輝く緑、左目は夕暮れのごとく透き通った真紅の瞳を持っており、体には質素なワンピース風の服を纏っていた。 「え~っと、オイラはアグモン。」 「フ~ン、アグモンかぁ!私は高町ヴィヴィオ!で、この子がお友達のギルちゃん!」 「僕、ギルモン!よろしくぅ」 「ねぇねぇ、どうして、こんな所にいるの?」 「街まで行こうと旅をしていたら姉御が熱を出して、倒れたから運び込んだだけなんだ。」 「姉御ってだぁれ?」 「オイラを庇ってくれたりする心の強い人でオイラの自慢の姉御、キャロ・ル・ルシエってんだ」 「キャロお姉ちゃん!?本当なの。」 「当たり前だよ!此処に居るじゃないか」 それから一時間してキャロは目を覚ました。 「姉御!しっかりして姉御!!」 「う、う~ん…。アグモン?それにフリード?そっか私、倒れちゃったんだ」 「良かったぁ!あ、そうだ姉御、これ着替え!姉御の服は今、洗ってるんだ」 言われて見ると確かに今まで着ていた服はなく、半裸だった。 「え、あ、ありがとう!」 そう言うとキャロは渡された服を着た。どうやらそれは男物を仕立て直した物らしく少し大きめだったが何とか着ることが出来た。 「姉御、似合ってるよ!」 「そ、そうかな?」 その格好はTシャツの様な上着と短いスカートを履きマントを纏うというものだった。 「お兄ちゃんの服似合ってるね!」 「嘘!?ヴィヴィオちゃん!?」 「うん、そうだよ!」 「良かったぁ、無事だったんだ~。ところでさっきから言ってるお兄ちゃんって?」 「えっとねぇ、ヴィヴィオとずっと暮らしてたの。で、今は南の方にお出かけしてるの」 「お兄ちゃんの名前は?」 「イクトって言うんだよ。野口イクト!」 「ヴィヴィオ~洗濯終わったよ~。今持ってくねぇ」 「分かったぁ。ありがとうギルちゃん!」 「ギルちゃん?」 「ギルモンって言うデジモンらしいですよ、姉御!」 「持って来たよぉ。とっ、とっ、とっ、うわっ」 洗濯物をばら蒔いてしまったギルモン。その中にはキャロの下着もあった為、さすがにキャロも慌てて片付けた。 アグモンはヴィヴィオと話をしていた。 「へぇ~、その写真の人はヴィヴィオのお母さんなんだ」 「うん、とっても大好きなんだ」 母親のことを思い出し少し落ち込んでしまいアグモンは狼狽えた。 「ゴメンね。気に触ること言ったかなぁ」 「ううん、大丈夫!今は、ギルちゃんも居るし寂しくないよ!」 そう言って笑うヴィヴィオ。アグモンにはそれが悲しげに見えたという。 「そう言えば、ギルモンのことあんまり聞いてないなぁ」 「じゃあ、教えてあげる」 ヴィヴィオは語り始めた、初めてギルモンとあった時のことを。 それは、嵐の晩のことだった。ヴィヴィオは、いつものように夕食をとり、眠りに就こうとした時だった。 外で、ドサッ、という物音がした。そして、ヴィヴィオが外に出てみるとそこには赤い騎士の様な影が見え、近づいて見るとそこには赤き龍が倒れていた。 「それが、ギルちゃんだったって訳なの」 「フ~ン。そんなふうに出会ったんだぁ!」「あ、そういえばギルちゃんとあった時、こんな声が聞こえたんだよ!『我が友のことを頼むぞ、幼き少女よ。我は影から見守って行こう。』て言う声がした後、白い鎧っていうのかな、左手が剣の人影が見えたんだ。」 そんなふうに喋っていたその時、茂みから唸り声が響いた。 「ウオォォ!」 そして茂みから出て来たのは、トータモンであった。 「力を試すには丁度いい。お前ら、死ねぇ!」 「ヴィヴィオちゃん下がって、ベビーバースト」 アグモンはベビーバーストを放つが全く効かなかった。 「堅い…、どうしよう。」 「待ってて、今、進化させ…」 「無茶だ!今の姉御じゃあチャージは出来ないよ」 「死ぬ覚悟は出来たなぁ。し、グオッ!」 「ヴィヴィオに手を出すなぁ!ファイアボール!」 トータモンがヴィヴィオを襲おうとした時、ギルモンが乱入し火球を放ち牽制した。 「えぇい邪魔だぁ!シェルファランクス!」 そう言うと甲羅のトゲが一斉に飛び、ギルモンを吹き飛ばした。 「ギルちゃん!」 「大丈夫だよぉ」 「私、私ギルちゃんの力になる!」 そう言ったヴィヴィオの周りを眩いほどの白銀のデジソウルが覆いい、その右手には、瞳の色と同じ、透き通った赤と緑のデジヴァイスicが握られていたのだ。 「ギルちゃんに力を!デジソウル、チャージ!」 その眩き銀のデジソウルはギルモンへと降り注いだ。 『ギルモン進化ぁ!グラウモン!』 そこには真紅の魔龍、グラウモンの姿があった。 「ヴィヴィオに指一本触れさせない!」 「ふざけるな!シェルファランクス!」 しかし、今度はシェルファランクスは届くことはなかった。 「プラズマブレイドォ!」 「な、なにぃ!?」 全てのトゲを真っ二つに斬られてしまったのだ。 「これで終わりだぁ!エキゾーストフレイムゥ!」 そう言って爆音と共にトータモンへと強力な火炎を放った。 「力を手に入れたばっかりなのにぃ…」 そう言い残しトータモンはデジタマへと戻ったのであった。 「ギルちゃん、凄い!」 「えへへ、褒められたぁ」 そう言いながらじゃれあう一人と一匹。 キャロは何かを決心したようにアグモンの方を向いた。 「決めた。ヴィヴィオちゃんを連れて行こう!」 「えぇ~!本当!」 「本当!」 「やったぁ!」 「大丈夫、姉御ぉ?」 「な、何とかなるよ」 前途多難な旅路に不安がる二人を見つめる影が二つ。 「やっぱり、ダメダメだな。私がしっかりしないと。な、ガオモン」 「イエス、マスター」 次回 デジモン・ザ・リリカルS F 第三話 「疾風と鉄槌」 お楽しみに! 戻る 目次へ 次へ
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第四話「懸念」 12月2日 2136時 海鳴市 セーフハウス 「どーーーーなってんのよ!」 先ほど起きたことに対してメリッサ・マオ曹長は困惑していた。 人が空を飛び、ASと切りあい、変な光線が空に向かって放たれたらヴェノムも 空を飛んでた護衛対象も姿を消した所を目撃したのだから当然と言えば当然だ。 「分からん。俺も目撃はしたが常識を超えていた。」 マオ・クルツ・宗介の3人はもう5回ほどお互いの頬をつねった。 その痛みが、これが紛れも無い現実だと伝えてくる。 「正直言って、この街でなにが起きてるか分からないわ。ただ確実に分かることは 私達の常識外のことが起きている事とアマルガムが絡んでるということだけね。」 空を飛ぶ人のことや夜空に放たれた光線は置いといて、現実的な問題はヴェノムについてのことだ。 ラムダ・ドライバ搭載型ASが現れた以上、M9でも荷が重い。 あと3機、それに装備が充実していればの話である。 今回の護衛任務には40ミリライフル砲と単分子カッターしか持ってきていない。 「対抗するには、アーバレストを寄越してもらうしかないのではないか?」 「そうねぇ。一応言ってみるとするか。」 支援要請のため衛星通信機に向かうマオ、宗介とクルツはまたお互いの頬をつねっている。 「ソースケよ。M9の映像記録を見なけりゃ誰も信じないだろうな。 いや加工された映像だと思うだろうぜ、普通」 「肯定だ、現在圧倒的に情報が不足している。この街で何が起こってるか知る必要がある。」 つねったまま今日の戦闘の映像記録のことを話し合う2人 「ところで、そろそろ手を離せよ。」 「そっちこそ離したらどうだ?」 お互い一向に離す気配は無い、むしろつねる力が強くなってきている。 「止めな。状況がよく分からないし、提出した映像も訳わかんないものであることは事実よ。 アーバレストについては追って返答するだって、なんか研究部の連中が来てるらしいわ。」 「研究部がかよ。あいつらの研究は俺達の生存率を上げる為のものじゃねえのかよ。 率先して足引っ張りやがって。」 「仕方ないわよ。ラムダ・ドライバの研究はミスリル全体の生存率を上げることになるんだから それに先日の香港の事件のときにラムダ・ドライバが複数回発動したでしょ? 機体への影響とかについてじっくり調べたいんだって」 アーバレストは、確かに香港事件でも上層部は出し惜しみをした。 ミスリル唯一のラムダ・ドライバ搭載機である、あれを失うことは出切るだけ避けたいのだろう。 もしくは、失っても代替が利くように研究しておく必要がある。 「そうか。しかし、あの無人地帯ができない限り奴等もそう簡単に手を出すこともできんだろう。 気をつけるべきは、日常生活における拉致だ。」 貧しい装備で戦うことは慣れていたし、M9でも戦い方次第ではヴェノム相手であっても何とかなる。 宗介の言葉に他の二人は頷き、この場の議論はそれで終了した。 同日 同時刻 海鳴市 八神家 「いや、明日の朝に入ることにする。」 シグナムはそういって風呂の勧めを断り、リビングルームに残った。 「今日の戦闘か?」 「聡いな、その通りだ。テスタロッサと言う魔導師に、あの傀儡兵・・・」 上着と長袖を捲り上げると、そこには痣ができていた。 「魔導師にしては、いいセンスをしていた。良い師に学んだのだろうな。武器が違ったならどうなったか・・・ それにお前達は見ていなかっただろうが、あの傀儡兵には妙な機能がついていた。」 「妙な機能?」 「完全に決まったと思われた攻撃がギリギリで見えない壁のようなものに防がれた。 しかもご丁寧にそれを使って逆襲してきた。」 「大型の傀儡兵に装備されているバリア機能ではないのか?」 「違う、通常のやつは防御一辺倒のものだ。あれは明らかに攻撃の機能も備わっている。 それに恐らくあれは管理局の物ではない、ヴィータの話では警告なしで攻撃してきた聞く。 管理局なら質量兵器は使わない上に攻撃する前に決まり文句を必ず言う。」 あごに手を当て考え込むシグナム 管理局でもないなら傀儡兵は、やはりこの世界のものか? しかし、よくニュース番組に出てくる傀儡兵―――この世界ではASというのだったか? と今日見たものは、かなり相違点があったが・・・。 「言ってなかったが、あの場所、いやあの傀儡兵から昼間に話したのと同じ臭いがした。」 ふと、ザフィーラは思い出したように言った。 「お前が言う刺激臭か?」 ああ、とザフィーラは頷いた。 この近くにやつが潜んでいるということか・・・? 「ザフィーラ、その臭いは今でもしているのか?」 「今はしない。するようになったら報告する。」 「そうか・・・今日は、もう動かないのかも知れんな。明日にでも調べるとしよう。」 シグナムは闇の書を持ち窓から外を眺め、これからどうするかという事に思いを廻らした。 同日 同時刻 時空管理局医療ブロック ずきりという痛みでなのはは目覚めた 「ここは・・・?」 辺りには見たことの無い機械が、ずらりと並んでいる。 規則正しくリズムを刻むこれは心電図だろうか? どちらにしても触らないほうがいいと判断し、しばらくぼうっとする。 (レイジング・ハート大丈夫かな?) 相棒を自らの弱さで傷つけてしまった後悔が脳裏をよぎる。 そんなことを10分ばかり考えていると部屋のドアが開き、白衣を着た男の人が入ってきた。 「おお、目が覚めたかね。どこか痛むところはあるかい?」 「ええと、肩がちょっと・・・じゃなくて、ここどこですか?」 「ここは時空管理局本部にある医療施設だよ。・・・ふーむ、肩か。」 時空管理局本部、なのはにとって初めて訪れる場所だ。 話に聞くアースラのみんなの職場である。 フェイトちゃんも今はここでお世話になってるはずだ。 「うむ。リンカーコアは、もう回復を始めているね。若いからかな?」 耳慣れない単語が出てきて、なのはは少し首を傾ける。 後で、聞いて分かったことだが魔法を使う者なら誰もが持っている魔力の源であり 魔力吸収器官でもあるらしい、自分はそれが極端に小さくなっていたそうだ。 しばらくして、検査が終わり出て行く医者と入れ替わりにフェイトちゃんが入ってきた。 「なのは、大丈夫?」 「うん、私頑丈だから・・・でも」 でも、レイジング・ハートが・・・ 「レイジング・ハートは大丈夫だよ。今、エイミィが部品を発注してる。 それに、私もバルディッシュを」 辺りになんとも言えない雰囲気が流れる。 いけない、そう思い話題を変えるなのは 「久しぶりだね、こんな再会になっちゃったけど」 フェイトは、うんと答え二人の話題はこの半年間のことに移った。 同日 同時刻 時空管理局医療ブロック休憩所 ユーノとアルフは、休憩所でジュースを買っていた。 「それにしても、あいつら何者なんだい?クロノはなんか心当たりがあったみたいだけど」 「文献で見たことがあるけど彼女達はベルカの騎士だよ。 武器の形状をしているデバイスに、あのカートリッジ・システムは間違いない。」 「ベルカって、あのベルカかい?最近になって古代技術の復元作業が進んでる、あの?」 「うん、そのベルカだよ。実の所、復元の8割は終わってミッドチルダ式との ハイブリットである近代ベルカ式も一応完成してるらしいけど 最大の特徴であるカートリッジ・システムの安全性に関するデータが揃って無いから 一般にはまだ出回ってないらしい・・・。 なんで彼女達が失われたベルカ式を使ってるのか知らないけど、とても厄介な相手だよ。 集団戦法に優れたミッドチルダ式に徐々に駆逐されていったけど1対1なら無類の強さを誇ると文献にはあった。」 ジュースを片手にアルフに相手の正体を推測するユーノ、実際に相手をして彼女達の強さは痛いほど分かる。 自分より明らかに強いなのはを倒し、フェイトを追い詰めたと言う事実だけで証拠は充分だろう。 そして一定の自負がある自分の防御魔法も危うく破られかけた。 なのはがSLBで結界を破壊してくれなければ全滅していただろう。 「なのはだけじゃなく、フェイトまで傷つけるなんて・・・!」 主とその親友が、傷つけられたことを思い出したのか ギリっと握り拳を作りアルフは近くの壁を殴る。 幸い手加減はしているらしく壁は、へこまなかったがそれでも大きな音はした。 「うわ、何?今の音。」 「なにか、すごい音がしたぞ。」 「クロノにエイミィさん・・・。どうですか?レイジング・ハートとバルディッシュは」 「フレームはひどいことになってるけど、基本構造にはダメージが及んでないから 部品交換すれば元に戻るよ。あ、ちなみに部品は来週来るみたい。 ・・・・それからフェイトちゃんは、どこ? 担当の保護観察官の人との面接の時間だから呼びに来たけど」 それを聞きアルフは急いでフェイトを呼びに行った。 保護観察官の心証を悪くしてもいい事なんて無いからだ。 同日 2156時 ギル・グレアム提督の執務室 グレアムは自分の方針を述べ、フェイトに自分との約束を守れるか聞き なのはには自分の昔話を話した。 「さて、フェイト君が約束を守ってくれると確約してくれた以上、面接は終了だよ。 そういえば、今回の事件の担当はアースラになるんだって? 現場はいろいろと面倒なことになってると聞くが」 グレアムは、なのはやフェイト後ろで控えていたクロノに尋ねる。 「はい。もう知っていると思いますが今回の事件には、あの闇の書が関わってます。 さらに現地世界の傀儡兵・・・いえASという兵器が出現しました。」 「そうか、あまり熱くなってはいけないよ。」 「大丈夫です。折り合いはもう着けましたし、提督の教えは守ります。」 クロノが部屋から出て行くと、それになのはとフェイトも続いていく。 「クロノ、ASってなのはを助けた傀儡兵のこと?」 「ああ、なのはに聞いた所によるとアーム・スレイブという人が搭乗する兵器で 第97管理外世界の各国に配備されてるらしい。」 「うん。忍さんが詳しいから知ってたけど本物を見るのは、あれが初めてだよ。」 クロノの言葉に頷く、なのは 「ASについての情報はエイミィたちが収集してくれてる。 現実問題は第1級捜索指定ロストロギア『闇の書』についてだ。」 「『闇の書』?」 なのはとフェイトは同時に聞き返す。 「闇の書は魔力収集型のロストロギア、他人のリンカーコアを吸収してページを埋めていく。 666ページがすべて埋まったら完成するというものだ。」 「完成すると、どうなるの?」 「少なくともいいことだけは起きない。」 とだけクロノは答えた。 12月3日 1007時 海鳴市 市立図書館前 ザフィーラの散歩ついでに、はやて、シグナム、シャマルは図書館に寄る。 ちょうど、はやても返却しなければならない本があった。 ちなみにヴィータは家でまだ寝ており、お留守番である。 「しかし、珍しいなあ。シャマルも調べ物があるって、何について調べるん?」 答え難いことを聞いてくる主に、どう答えたものか迷うシャマル 「ええと、最近ヴィータちゃんがロボットアニメに嵌っちゃって それで、この世界にもASって言うロボットがあるって言ったら興味心身で・・・ だからヴィータちゃんのために図鑑みたいなものを探してるんですよ。」 嘘は言っていない。事実、月曜日のゴールデンタイムに放送しているロボットアニメ番組をヴィータは、はやてと一緒に見ていた。 その嵌り具合を知っているはやては、なるほどと納得してしまう。 しかし、実際は昨日の戦闘に現れたASについて調べるためだ。 「では、私はしばらくザフィーラとここの周りを散歩してきます。」 図書館に動物の立ち入りは厳禁なのである。 ではなく、調べ物はシャマルに任せ散歩と称した付近の見回りをするためだ。 それに・・・・ (シグナム、例の臭いだ。) ザフィーラが、家を出る際にシグナムに警告してきた。 だが殺気の類は全くなく、主の前でもある。一応、いつでも対応できるようにしていた。 しかし監視者がいるなら情報を得る絶好の機会だ。 そうして、ザフィーラが言う臭いの中心に向かって進んでゆく。 (ここら辺だ。) 流石にここまで来れば、ほんの微かだがシグナムにも臭いを感じることができる。 辺りを見渡しても、それらしい臭いの元になるものはない。 しかし臭いと気配を感じる虚空をシグナムとザフィーラは、じっと見つめ続けた。 前へ 目次へ 次へ
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「いくよ、バルディッシュ。ブリッツラッシュ」 『Yes,sir. Blitz Rush.』 バクラーケンは煙幕を張ろうとするが、フェイトがそれを許さない。ブリッツラッシュで距離を詰め、零距離で左手を突きつけた。 「この距離なら、煙幕を張られても外さない…!撃ち抜け、轟雷!プラズマスマッシャー!」 『Plasma Smasher.』 魔法陣が複数形成される。さらに魔力が溜まってゆく。 そして、雷の砲撃魔法『プラズマスマッシャー』がバクラーケンに風穴を開け、そのまま爆散させた。 「ハァァァァ…りゃぁぁぁぁぁ!!」 投げつけた武器をウィスクラーケンが払った隙に、龍騎がドラグクローを構えていた。それに呼応しドラグレッダーが現れる。 そして、右ストレートの要領で昇竜突破を放った。 ウィスクラーケンはそれを槍で受け止めようとしたが、槍で炎を受け止められるはずも無く、そのまま焼き尽くされた。 「あんたら魔法使いはライダーの戦いを邪魔するんだって聞いてるんだ」 初耳だ。一体いつの間に神崎に存在を知られたのだろうか? 「何だよそれ…俺はそんなの聞いてないぞ!」 「あんた、その子と親しいみたいだし、邪魔者に加担してるって思われてるんじゃないの?」 なるほど、道理で龍騎の所にはその情報が届かなかったわけだ。 だとしたら、蓮や手塚の所にもその情報は来ていないのだろう。 「今ここで倒してもいいけど…今回は警告だけにしておくよ」 そう言うと、フェイトの喉下にバイザーをつき付け、言った。 「ライダーの戦い、邪魔はしないほうがいいよ」 ファムは言いたい事を言うとバイザーを収め、ミラーワールドを出て行った。 (何?それは本当なのか?) (うん…あの白いライダーも言ってたし、多分本当なんだと思う) こちらはアースラ艦橋。現在クロノが念話で報告を受けているところのようだ。 (そうか…なら今後はモンスターだけじゃなく、ライダーの襲撃にも気をつけた方がよさそうだな) (そうだね…なのは達には私から伝えておくよ) (頼む) これで報告は終わりだ。念話を終え、一息つくクロノ。 (神崎士郎、だったか…何で魔導師のことを知っているんだ?) クロノの疑問ももっともだ。 これまで魔導師が出た戦いの場には、神崎はいなかった。それなのに何故知っているのか…? 「まあ、今考えても仕方ないな」 この一言とともに、クロノの思考は中断された。 第十七話『回転VS回転』 カツン、コロコロコロ… 先ほどからこのような音がする。ここは市内にあるゲートボール場だ。 「おお、上手い上手い」 「へへ、そうか?」 爺さんに褒められた赤い髪の子供…よく見るとヴィータだ。 ヴィータはどうやらよくここでゲートボールをしているらしい。本当に楽しそうだ。 …と、褒められて上機嫌な時に違和感に気付く。 「あれ?なあ、今日はなんか…何人か足りなくねえか?」 そう、ヴィータが前に来た時よりも人が少ないのだ。 「そうじゃの…ここ最近、来なくなった人たちがいるんじゃよ…」 「そういえば菊次郎の爺さんもトメ婆さんも、ここ最近来とらんなぁ」 「あの二人はゲートボールが何より好きじゃったのに、何があったんじゃろうなぁ…?」 ヴィータも何があったのかは気になった。だが、終わってから見舞いに行けばいいだろうと思い、次の人に順番を代わった。 ちなみにヴィータのチームが負けたようだ。 「えっと、爺さんの家は…」 ゲートボールが終わり、本当に見舞いに行こうとするヴィータ。現在その人の家を探している真っ最中だ。 「お、ここだここだ」 今見つかったところのようだ。ドアをノックし、その音に反応した家の人間が出てくる家の人間が出てくる 「え?行方不明だって?」 「そうなのよ。この間のゲートボールの時から帰ってこなくて…」 来ないと思ったらまさか行方不明だったとは。さすがに予想外だったらしく、驚くヴィータ。 (行方不明…まさかモンスターか?) 「とにかく、そういう訳だからおじいちゃんには会えないの。ごめんなさいね」 「あ、ああ。じゃあ、おじゃましました」 そう言って、他の老人達の家に向かうヴィータ。 だが、そのうちの半分以上が行方不明になっていることを、彼女はまだ知らない。 全員の家を回り、帰宅するときにはもう夜になっていた。 「どうなってんだよ…何で爺さん達が襲われなきゃなんないんだよ…!」 そう言いながら家路に着くヴィータ。既にその顔は半泣きだ。 そして次の瞬間、何かがヴィータを掴み、ミラーワールドへと引き込もうとする。 「うわっ!?くっ、グラーフアイゼン!」 『Jawohl.』 「テートリヒ・シュラーク!」 すぐにグラーフアイゼンを起動させ、その『何か』に一撃を見舞う。その衝撃で捕縛が緩んだようだ。 他の誰かならいざ知らず、小柄なヴィータならこの程度の緩みですぐに脱出できる。そこから脱出すると、すぐに騎士甲冑を纏った。 その何かがミラーワールドへと引っ込んだ。ヴィータもそれを追い、ミラーワールドへと飛び込む。 「この蟹みたいな奴、どっかで見たな…」 ヴィータは今、目の前にいる蟹のようなモンスターと対峙していた。 「まあいいや。敵だってんなら倒すだけだ!」 そう言い、再び一撃を見舞おうと突撃する。だが… 『GUARDVENT』 何者かが盾を手に割り込み、ヴィータの攻撃を止める。 「困りますね…私の契約モンスターを倒そうとしてもらっては」 「あ?あんた、須藤のおっさん!?何やってんだよこんなとこで!」 攻撃を止めたのは、この蟹のモンスター『ボルキャンサー』の契約者、シザースだ。 「私はまだ28です。おっさん扱いされるいわれは無いはずですがね」 「おっさんじゃねえか」 とことんまでおっさん扱いされ、軽くへこむシザース。 だが、それにもめげずにヴィータの問いに答える。 「…まあいいでしょう。モンスターに餌を与えていたんです」 「餌…人間を食わせてたってのか?」 「ええ、そうですよ。もっとも最近は…管理局でしたか?そちらの見張りがいたので餌を与えられませんでしたが。 最近やっとマークが外れたので遠慮なく食べさせていたというわけです。 苦労しましたよ。そちらにマークされている間、善良な一刑事のふりをしてなければならなかったのですから」 この男、やはり今回も人を食わせていたのか。 そこでヴィータはある可能性を思いついた。絶対に外れていてほしい可能性を。 「一つだけ聞いていいか?まさかあの爺さん達が行方不明になったのは…!」 「そうですね…ここ最近、老人をよく食べているようですからね。そのお爺さんもおそらくボルキャンサーが食べたのでしょう。 ついでに言うと、貴方と共闘したあの時も、ボルキャンサーに餌を与えていたのですがね。その時も食べたのは老人でした… 全く、運が悪いです。最近は獲物にできる人間が老人しかいませんからね…」 可能性は当たっていた。行方不明の爺さん達は、ボルキャンサーに喰われたのだ。 瞬間、ヴィータの目の色が変わる。 「てめえが…あの爺さん達を…! 何でだよ!そんなに餌をやりてえなら、モンスターを喰わせりゃいいだろ!」 「そうもいかないのですよ。私は以前人を殺した事がありましてね、奴の失踪を隠すにはちょうどよかったのですよ。 それに、私が頂点に立つために、モンスターの力を蓄えることもできますからね」 聞いているだけで怒りが湧き上がる。少なくとも、今のヴィータの心情はそれだ。 だが、何故ここまでペラペラと喋るのだろうか。それが少し気になった。 「何故ここまで喋るのか、気になっているようですね? 何のことはありません。貴方はここで死ぬので、冥土の土産という奴です」 それを言い終える前に、ヴィータが炎を纏った一撃『フランメシュラーク』を放つ。シザースはそれを再び盾で受け止めた。 「いい事教えてやるよ。そうやってペラペラ喋る野郎はな…必ず倒されるんだよ!」 「貴方、マンガの読みすぎではありませんか?」 「ん?」 同じ頃、浅倉が例の金属音に気付く。 「モンスターか…ちょうどいい。今イライラしていたんだ」 そう言うと、気配のあった場所まで走る。走る。気配の正体を見つけた。 その気配の正体であるモンスターを殴り返し、近くの鏡へと向き直る。そして… 「変身!」 王蛇へと変身し、ミラーワールドへと飛び込んだ。 ちなみに王蛇は気付かないが、近くではヴィータとシザースの死闘が繰り広げられていた。 「このヤロー!」 ヴィータの一撃がシザースへと振り下ろされる。シザースはそれを受け止め、シザースピンチを振りかざす。 「障壁!」 『Panzerhindernis.』 シザースピンチの一撃を、防御魔法『パンツァーヒンダネス』で受け止め、距離をとるヴィータ。 そして小さな鉄球を取り出した。遠隔操作弾『シュワルベフリーゲン』を放つつもりだ。 「何かするつもりですね…させません。ボルキャンサー!」 先ほどから表に出ていたボルキャンサーが、ヴィータへと突っ込む。 ヴィータは完全にシザースへと注意が向いていたため、ボルキャンサーを忘れていた。横からのハサミの一撃が飛ぶ。 それを何とかかわすが…帽子についているウサギのぬいぐるみが千切れてしまった。 「ウサギが…!」 ヴィータが最も嫌うこと、それははやてに買ってもらったウサギのぬいぐるみが汚されることである。 ウサギが千切られたことを認識するのに少し時間がかかり、それが隙になった。 「何だかよく分かりませんが、チャンスのようですね」 『FINALVENT』 先ほどまでいたボルキャンサーが消え、シザースの背後から再び現れた。シザースアタックでヴィータを仕留めるつもりだ。 「許さねえ…てめえは必ずぶっ飛ばす!グラーフアイゼン、ラケーテンフォルム!」 『Jawohl. Raketenform.』 グラーフアイゼンをラケーテンフォルムへと変形させ、カートリッジをロードする。 この形態から放つ魔法といえばラケーテンハンマーだろうが、それにしてはロードする数が多い。 …いや、回転を始めた。やはりラケーテンハンマーを放つつもりだ。 「はぁっ!」 その間にシザースはボルキャンサーのハサミに乗り、高く高く飛んだ。そして空中で高速回転を始め、ヴィータへと突っ込む。 これがシザース最大の必殺技『シザースアタック』だ。それを見たヴィータが仕掛ける。 「カニが飛ぶなぁ!ラケーテン!ハンマァァァァァ!」『Explosion.』 いや、確かにカニだが。 それはさておき、ヴィータが遠心力を利用し、ラケーテンハンマーを叩き込もうとシザースへと突っ込む。 そして互いの必殺技が空中で激突した。威力は拮抗…いや、ヴィータが多少押されている。 …と、空中で残りのカートリッジを全弾ロードし、破壊力を高めた。さすがにこれには対抗し切れなかったか、シザースが吹っ飛ぶ。 ヴィータはその勢いのまま、ボルキャンサーへと突っ込む。彼女の狙いはこちらだったのだ。 「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇッ!!」 その咆哮とともにボルキャンサーに当たり、そのまま粉砕した。 『FINALVENT』 同じ頃、王蛇もまたモンスターとの戦闘が佳境に入っていた。 「はぁぁぁぁ…はぁぁ!」 ベノクラッシュを猪型モンスター『シールドボーダー』へと放つ。一方シールドボーダーは盾で受け止めようとした。 だが、シールドボーダーの盾ごときでは、ベノクラッシュは防げない。そのまま盾ごと蹴り砕かれた。 「こんなもんか…あ?」 近くでヴィータとシザースが戦っていることにやっと気付いたようだ。 王蛇が気付いた頃にはヴィータがシザースを弾き飛ばした後で、今ボルキャンサーを砕こうとして…訂正、今砕いた。 「何だ?こんな近くで面白そうな事やってるじゃねえか…」 そう言うと王蛇は、戦場へと歩いていった。 「どうだ…モンスター潰されたんなら、お前は戦えねえだろ」 シザースの方へと向き直り、ヴィータが言い放つ。 確かにモンスターが潰されたとなると、ライダーの力は急激に衰える。 シザースもまた例外ではない。ライダーの鎧『グランメイル』の色が灰色へと変化し、ブランク体へと変化していった。 「分解されねえ程度にそこで反省してろ。あたしは帰る」 そう言うと、ヴィータはミラーワールドを出た。 (爺さん達…仇はとったぞ…!) 「私は、ここで果てるわけにはいかないのですよ…!」 そう言うと、シザースは立ち上がり、ミラーワールドを出ようとする。 「まずは他のモンスターと契約して、戦いに復帰しなければ…」 その思考は、すぐに中断されることになる。 「よお、須藤刑事…借りを返しに来たぜ」 聞き覚えのある、今一番聞きたくない声。 その声に反応して振り向くと、奴がいた。 「あ、浅倉…!」 「もう一人は帰ったみたいだな。まあいい、お前に借りを返すのが先だ」 『STRIKEVENT』 そう言うと、メタルゲラスと契約した時に得た武器『メタルホーン』を出し、シザースへと振りかざす。 何とかかわすか防ぐかしようとするが、今のシザースにはどちらも不可能。徹底的に叩かれる。 やがてシザースいじめに飽き、全力の一撃で転ばせた。 「ミラーワールドに刑事はいらない…!」 そう言うと、一枚のカードを取り出し、装填した。 『FINALVENT』 先ほど使ったのとは違う、もう一枚のファイナルベント。 ガイを倒したときに契約したモンスター『メタルゲラス』のファイナルベント『ヘビープレッシャー』だ。 そして立ち上がろうとしたシザースの腹を、ヘビープレッシャーで貫いた。 「が…そん…な…私は…こんな…所で――――」 その言葉とともに変身が解け、シザース…いや、須藤がその場に倒れる。 その腹には大穴が開き、そこから大量の血が流れている。もう助からないだろう。 「つまらねえな…」 王蛇はそう言うと、ミラーワールドを去った。 後に残された須藤の体は粒子化を始め、やがて消滅していった… 仮面ライダーシザース:須藤雅史…死亡 残るライダー…11人 戻る 目次へ 次へ
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【魔法少女リリカルなのはStrikerS】出典の支給品 【リボルバーナックル】 スバル・ナカジマに支給。 スバル・ナカジマ及びギンガ・ナカジマが使用する拳装着型アームドデバイス。非人格型で喋る事も無い。 肘から先を覆う大型かつ重厚な篭手であり、手首の辺りに備えられた二重のナックルスピナーやカートリッジシステムによって攻撃力を上げる事が出来る。マッハキャリバー及びブリッツキャリバーが開発された際にそれらとのシンクロ機能が搭載され、収納と瞬間装着の機能も追加された。元々はスバルとギンガの母、クイント・ナカジマが使用していた物だが、彼女の死後は形見としてスバルが黒い右腕用、ギンガが白い左腕用を使用している。ただし、使用者が特性をインストールすると色も変化するため、クイントが使用していた時のリボルバーナックルのカラーはスバルとギンガが使用している時とは異なり、スバルが左腕用を装着したときも黒に変化した。 【マッハキャリバー】 スバル・ナカジマに支給。 スバル・ナカジマが機動六課より支給されたインテリジェントデバイス。スバル専用デバイスとしてシャリオ・フィニーノ達が開発した。 足首から下を覆うインラインスケート型、分厚い装甲と蒸気を吐き出すマフラーを備えた重厚なデザインで、待機形態はペンダントとなる。リモード2《ギア・セカンド》は他のデバイスのように形態が変わらない。スバルとはお互いに「相棒」と呼び合っている。 戦闘機人の能力を暴走させたスバルからの負荷に耐える事ができず一度破損。その後、マッハキャリバー自身が考案したフレーム及び装甲等の特別強化プラン(代わりに魔力消費量1.4倍、重量2.5倍に増加)と、ファイナルリミット《ギア・エクセリオン》解除を施されている。 【ストラーダ】 ティアナ・ランスターに支給。 ティアナ・ランスターに支給。 エリオ・モンディアル専用のアームドデバイス。 エリオの身の丈以上もある長槍型。穂先部分は左右に噴射機を備えた巨大な三角形となっており、分類としてはパルチザンの形といえる。カートリッジシステムを搭載しており、カートリッジロードや援護魔法による強化を受けると、噴射機が起動し推力を発生させる。待機時は腕時計となり、エリオは普段右手首に付けている。通信機能も搭載されており、中央にモニターが表示される。 ケリュケイオンと共に、マッハキャリバーやクロスミラージュより先に完成していたが、デバイスの使用経験が無かったエリオを慣れさせる為、基礎フレームと最低限の機能だけで渡されていた。だが、スバルやティアナに専用デバイスが与えられたのを契機に、本来の状態に戻された。《スピーアフォルム》を基本形態とし、フォルム2(ツヴァイ)である《デューゼンフォルム》は無数の噴射機を起動させて突撃力を飛躍的に高める形態で、ある程度の飛行も可能。フォルム3(ドライ)である《ウンヴェッターフォルム》はエリオの『電気変換』の能力を最大限に発揮させる為の形態である。 【ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 ルーテシア・アルピーノに支給。 キャロ・ル・ルシエ専用のブーストデバイス。 キャロの両手を覆うグローブ型をしている。複製を発生させて一対となるクロスミラージュとは異なり、こちらは両方共が本体であり、両手に装着しているのが常態である。待機時はブレスレットとなる。 【アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 キャロ・ル・ルシエに支給。 ルーテシアが使用するグローブ型のブーストデバイス。待機形態が存在しないのか、こちらは常にルーテシアの両手に装着されている。キャロのケリュケイオンに形状が酷似している。普段はルーテシアによって能力限定がかけられている。 元々はルーテシアの母、メガーヌ・アルピーノが使用していたデバイスである。 【レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 ゼスト・グランガイツに支給。 通称「炎の魔剣」。アームドデバイスにしてシグナムの愛刀。 グラーフアイゼンと同じくカートリッジシステムを搭載し、初戦においてフェイトを圧倒、バルディッシュを中破に追い込んだ。通常形態の片刃の長剣《シュベルトフォルム》から、連結刃と呼ばれる刃を備えた鞭《シュランゲフォルム》へ、また鞘と剣を一体化した弓矢型の《ボーゲンフォルム》へと変形する。刀身に魔力を込めて炎を纏わせて両断する「紫電一閃」はシュベルトフォルム、刃に魔力を乗せる中距離攻撃「飛竜一閃」はシュランゲフォルム、刀身を流用して生成した矢を射出する「シュツルムファルケン」はボーゲンフォルムでのみ使用可能。
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余裕 「彼」が立っていたのは森の中。 夜の冷たい風が吹きぬけ、がさがさと葉がこすれあう風景は、これから始まる狂気の殺人ゲームの空気を的確に表現する。 しかしながら、「彼」はその場に似つかわしくないほど、ひどく落ち着いていた。 「…ひとまず、支給品とやらを調べてみるか」 「彼」――セフィロスは、持っていたデイバッグをどんと地面に置くと、その中身を調べ始めた。 目の前で唐突に命を奪われた、金髪の少女と鎧の男。 明らかに異常な光景だったが、それは彼の心を震わせるには至らない。 何故なら、当にセフィロスは殺しまくっていたから。 軍人だから、というわけではない。 確かにソルジャークラス1stという栄光は、彼が斬り伏せた数多の人間の血によって塗り固められたものである。 しかし、この男の「殺した」とは、そういう人が人を殺すこととは違う。 強いて言うなら、道端を歩く虫を殺すのと同じ感覚。 セフィロスにとっての人間は、犬や猫などの動物と同じ。 何故なら、当のセフィロスが人間ではないのだから。 「武器として使えるのは――これか」 『 クロスミラージュ 「機動六課」前線フォワード部隊の一員が用いる、拳銃型インテリジェントデバイス。 通常形態のガンズモード、クロスレンジ用のダガーモード、ロングレンジ用のブレイズモードに変形』 見覚えのある武器だったのは幸いであろう。 これはティアナの使用している二挺拳銃のデバイスだ。 各種レンジに対応したモードが備え付けてあり、あらゆる戦況でそつなく使用することができる。 しかし、それでも尚、セフィロスには腑に落ちないところがあったようだ。 「…よりにもよって銃か…」 ソルジャーは銃を使わない。彼らの超人的な肉体を活かすのは、銃ではないからだ。 普段剣で戦っている彼にとって、銃はあまり使い慣れたものではない。どうしても不便な印象が残る。 ダガーモードがあるだけましかもしれないが、それも正宗に比べれば絶望的なリーチ差だ。 せめてレヴァンティンならばよかったのだが。 そんな思考が、セフィロスの脳裏をよぎった。 愚痴っていても始まらないので、彼は再び荷物を漁り始める。 新たに見つけたのは、1枚の紙切れ。 一般に言うトレーディングカードゲームだ。聖職者のような服装をした、中年の女性が描かれている。 『 治療の神 ディアン・ケト デュエルディスクにセットすることで発動可能。自分のライフポイントを1000回復する』 ライフポイントを回復する、ということは、要するに治療のためのものなのだろう。 セフィロスはそう解釈することにした。 「それにしても…何故そのデュエルディスクとやらも付属していないんだ…」 そしてまた愚痴をこぼし、ため息をつく。 それらしいものが見られない以上、どうやら今のところ、この治療用具は宝の持ち腐れらしい。 まったくもって装備に不満が多すぎる。 しかし、これが基本なのだろう。でなければゲームとしては面白くない。 少なくとも、傍観している側からは。 ならば、欲しいものは相手から奪い取れ、ということか。 「…クロスミラージュ・セットアップ」 セフィロスはそう呟き、待機状態のクロスミラージュをアクティブにする。 すぐさま、ティアナが愛用していたハンドガンの片割れが姿を現した。 「今は俺がお前を使うことになっている」 『Yes,Sir.』 あまりにあっさりとした返答だ。 普通の人格型デバイスなら、持ち主以外が使用する時には何らかのリアクションを示すだろう。 であれば、何らかの改造が施されているということか。 メモリーを消去するなり、あるいは、誰が所有者であろうと命令を聞くようにするなり。 「技は何が使える?」 だとすると、機能の方にも何らかの変化があるのかもしれない。 そう判断し、ひとまずセフィロスは問いただす。 『クロスファイアシュート、ファントムブレイザー、…』 読み上げられた名称は、全てティアナが用いていた技のもの。 どうやら彼女個人のテクニックである幻術魔法以外は、一通り使用できるらしい。 「十分だ」 そう独りごちると、セフィロスはデイバッグを持ち上げた。 そのまま周囲を見回し、適当な木の洞を見つける。 そこそこに大きな木の根元にぽっかりと空いたそこは、人1人が入るには申し分ない大きさだ。 セフィロスはそこにデイバッグを投げ入れると、自身もその中に入り、どっかと腰を落ち着かせた。 あぐらをかいて座ること数分。参加者の名前が載った名簿を読むことすらしない。 『どうされるつもりですか、サー?』 クロスミラージュが問いかけた。 常人を遥かに凌駕した、侵略者ジェノバの力をその身に宿す魔人。 そのセフィロスは、今後この狂気渦巻く戦場でいかに立ち回るつもりなのか、と。 「特に何も」 返ってきた返事は、あまりに予想外なものだった。 『What?』 無口なはずのクロスミラージュが、たまらず聞き返す。 「俺は特に何もしない。じたばたするよりは、周りが殺し合ってくれた方が楽に生き残れるだろう」 セフィロスはそう答えた。 彼は知っている。 こういう極限状態ならば、必ず何人かは、制限時間切れの死亡を避けるために進んで殺人者となることを。 自分が無理に動く必要はまるでない。手間がかかるだけだ。 普通は思いつかない戦術。それをすんなりと思いつけるほどに、セフィロスは落ち着いていた。 人が死んだ? 目の前で殺された? そんなこと、元より知ったことではないのだから。 『もしも、敵に見つかった時は?』 「さすがにその時は反撃するまでだ」 逆に、自分が誰かを殺すことにも心は痛まない。 そもそも彼にとって殺人は願望だ。自分の住む星の人間を皆殺しにし、支配することがジェノバの――そして、セフィロスの悲願。 『仮に、お知り合いが攻撃を仕掛けてきた時は?』 クロスミラージュは尚も問いかける。 脳裏に浮かぶのは、機動六課で共に戦った者達。あの会場にも見られた、孤独な自分を受け入れてくれた人達。 ジェノバとしての使命を受け入れて以来できた、初めての仲間。 誰よりも、全てのきっかけとなった、あの短い茶髪の女。 「…どうにでもなるさ」 しかし、非情な声で、セフィロスは答えた。 【一日目 AM0 13】 【現在地:H-1 森林】 【セフィロス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 [状態] 健康 [装備] クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS [道具] 支給品一式・魔法カード「治療の神 ディアン・ケト」@リリカル遊戯王GX [思考・状況] 基本 事態を静観し、潰し合うのを待つ 1 とりあえず禁止エリアだけを警戒すればいいか 2 向かってくるのならば、六課の連中だろうと問答無用で殺す 3 一応食料は探しておこう [備考] ※能力・思考基準はゆりかご攻防戦直前です ※ヴァリアブルバレットは、コツが分からないので使用不可です 002 本編投下順 004
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戦士のエチュード グリフィスは川岸にいた。ザフィーラの埋葬の場所を探して。 「とにかく、ザフィーラを埋葬しよう。でないと報われない」 傍らにはザフィーラの遺体。右手には木刀、左手にはデイバックを持っていた。 「ザフィーラ…、あなたはもしかしてあの娘を…」 ザフィーラの遺体の近くにいて、ザフィーラを殺害したと思われる少女。 もしかしたらあの娘は自らの身を守っただけでは? だとしたらザフィーラは殺し合いに乗ったというのだろうか? そんなことを考えながらも埋葬場所を探していた。 「だとしたら、あなたも彼女も罪を問われるべきなんだろうな…」 真面目な彼はそんなことを考えていた。 移動しようと、デイバックを持っていく為にザフィーラの側から離れた瞬間、赤い熱線が先程までいた場所を抉りザフィーラの遺体を消し去った。 (なんなんだ、一体) そう考え、上空を見ると、そこには身体に大きな傷を負った、魔導師だと思われる人がいた。 グリフィスがザフィーラの遺体を川岸に運んだ頃、少年エリオ・モンディアルは川の対岸にやって来ていた。 彼は、戦う相手を求めここまでやって来たのだ。 ヤクトミラージュを握りしめ、マジンカイザーを使い。 そして、エリオは見つけた。新たなる敵を、グリフィスを。 本来グリフィスは非戦闘員。しかし、今のエリオにはそんなことはどうでもよかった。 ただ、戦えればいいのだから…。 だから放つのだ無慈悲の閃光を。 「ファイヤーブラスター!」 しかし幸か不幸かグリフィスは移動し、閃光は外れた。 エリオにはこう移った避けたのだと…。 「次はあなたが相手をしてくれるんですか?グリフィスさん」 グリフィスは焦っていた。突然の襲撃者に。今、自分に武器はない。木刀は先程の攻撃の衝撃で落としてしまった。 どのみち、木刀では魔導師には勝てない。 グリフィスは先程の攻撃で断定した。相手は魔導師だと。 そして今の自分に魔導師と戦う力はない。ならば方法は一つ。 逃げる、とにかく逃げきることである。 幸い近くに森がある。森の中なら相手が飛んでいようと関係はなくなる。 しかし、エリオはそれも許さないかのように射撃をしてくる。 「うわッ!あ、眼鏡が」 激しい攻撃にふとした拍子に転び、眼鏡とデイバックの中身が放り出された。 グリフィスは急いで立ち上げろうとする。 その右手にカードデッキをつかんでいることに気付かず。 地面に放たれた魔力弾の光。それは眼鏡に反射しグリフィスとカードデッキを写した。 そして、グリフィスの腰にバックルがセットされる。 「これはもしかして…」 グリフィスは考える。これはこの箱の力を引き出すものではないのか、と。 しかし、エリオは待ってくれない。 「鬼ごっこは終わりですか?」 「一か八かだけど、ウオォォォ!」 エリオの放つ魔力弾が迫る中、グリフィスはデッキをバックルにはめこんだ。 そして、 「やっぱり戦いはこうじゃないと」 そこには緑の鎧を纏った戦士がいた。グリフィスである。 戦士の名はゾルダ。 神崎が作り上げたデッキの力を纏った姿である。 「早く戦いましょうよ。ねっ!」 「狂ってる…」 【1日目 現時刻AM2 46】 【場所 I-5 森付近】 【グリフィス・ロウラン@リリカルなのはFeather】 [状態]健康。疲労(中)ゾルダに変身中 [装備]マグナバイザー、カードデッキ(ゾルダ@マスカレード [道具]遊戯王カード「バスターブレイダー」「魔法の筒(マジックシリンダー)」「光の護封剣」@リリカル遊戯王GX [思考・状況] 基本的にこのゲームには乗らない。 1.目の前の魔導師の拘束しなければ 2.部隊長…、どこに…。 〔備考〕 ※カードデッキの制限については知りません。 ※魔導師がエリオだとまだ気付いてません。 【1日目現時刻AM2 45】 【場所 I-5 森付近】 【エリオ=モンディアル@リリカル遊戯王GX】 〔時間軸〕第六話終了後 〔状態〕左胸上部から右脇腹への裂傷、デュエルゾンビ化、魔力消費大、体力消費大 〔装備〕マジンカイザー@魔法少女リリカルマジンガーK s ヤクトミラージュ@NANOSING 〔道具〕支給品一式 レヴァンティン@スーパーリリカル大戦(!?)外伝 魔装機神 THE BELKA OF MAZIKAL ローザミスティカ@ヴィータと不思議なお人形 [思考・状況] 基本 戦いを楽しむ 1.グリフィスさんと戦おう。 2.なのはさんを探す 049 本編投下順 051
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『スカリエッティ立ち上がったー! しかし顔面が血まみれだー!』 「こ…これは…血…?」 先程鉄柱に打ち付けられたせいもあってスカリエッティの顔面からは大量の血が 流れ出ていたのだが…スカリエッティはそれに対し信じられないと言った顔をしていた。 「な…何故血が…何故血が流れるのだ…。」 「そりゃ~攻撃を受ければ傷付いて血が出るのは当然じゃないか!」 万太郎も呆れていた。万太郎の過去の戦績は確かに超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝の ケビンマスク戦を除いて全て勝ち星を上げている。だがどれも苦しい戦いだった。血を一滴も 流さずに勝利出来た試合など一つも無い。むしろ全身傷だらけ、血だらけになる試合もあった。 だからこそ今更血が出たくらいで驚かなくなっていたのだが…元々研究者であり、 改造によって自身の肉体を強化したスカリエッティは自らの流血に対する耐性が無かったのだろう。 「何故だ…何故だ…私は究極の肉体を手に入れたはずだ…。どんな攻撃にも耐えうる 強靭な肉体を作り上げたはずだ…なのに何故血が出る…? 何故だ…何故だ… 何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 『あーっとスカリエッティが物凄い形相となったー!』 スカリエッティは激怒した。自らの肉体に自身を持っていただけに… その肉体を流血させた万太郎が許せなかったのである。 「きぃぃぃさまぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「んぐぁ!!」 次の瞬間スカリエッティの鉄拳が万太郎の腹部に直撃し、万太郎が勢い良く吹っ飛んだ。 だが、それもロープに引っかかってその反動で勢い良く戻って来るのだが… 「死ぬぇぇぇぇぇ!!」 その戻って来た万太郎にスカリエッティの蹴りが炸裂する。そしてまた吹っ飛んだ後で ロープに引っかかって反動で戻って来た後でまた殴り飛ばされたり蹴り飛ばされたり… その繰り返しが始まってしまった。 『あーっとスカリエッティの猛攻が始まったー! 万太郎手も脚も出ないー!』 「やばい! やばいんじゃないのこれー!」 「うん! パターンが入ってしまった!」 格闘技にはいまいち詳しくないなのはとユーノでも万太郎がピンチだと言う事は理解出来た。 如何に人間を遥かに超越した耐久力を持つ超人でもアレだけの猛攻を受けて無事でいられるワケが無い。 だが…やはり万太郎は並の超人では無かった。 「あ…あんまり調子に乗っちゃダメだよ!」 ロープの反動で戻って来た所をまたもスカリエッティの追い討ちを受ける万太郎だが… 次の瞬間万太郎が肉のカーテンの体勢を取る事によってスカリエッティの拳を弾き返していた。 『あーっと万太郎! 今度は肉のカーテンで逆にスカリエッティの攻撃を弾き返したー!』 「うおおおお!」 「今度は僕の番だ! マンタロー飛び付き腕ひしぎ十字固め!!」 万太郎はバランスを崩したスカリエッティの腕に飛び付いて腕ひしぎ十字固めを仕掛けた。 『出た! 万太郎の腕ひしぎ十字固めー!』 『パワーで劣る分はテクニックでカバーしようと言う事ですね?』 「う…うおあああああ!!」 「このままお前の腕を圧し折ってやる!!」 スカリエッティは流血に対してのみならず、関節技に対する耐性も低かった。 無理も無い。敵との戦いや自ら鍛えると言う方法では無く、改造によって自らを強くしたのだ。 敵から関節技を直接受けた事が無いからこそ意外にも関節技に対する耐性が低かったのである。 「確かにお前のパワーは凄いよ! 超人強度に換算すれば1000万パワーにも達してる。 でも…テクニックに関してはてんでド素人だ!!」 「うおああああああ!!」 万太郎の超人強度は93万パワー。しかしそれでも万太郎は700万パワーの ザ・コンステレーションや1200万のボルトマン、1000万のリボーンアシュラマンなど 自身の何倍もの超人強度の相手と戦い、辛くも勝利を収めて来た。 その万太郎が冷静にスカリエッティの実力を考えた場合、上記の三人に比べて 見劣りする物を感じていた。何故なら上記の三人はただ超人強度の高さから来る 強大なパワーだけでは無く、それぞれのテクニックと言う物を持っていた。 特にリボーンアシュラマンなど、ジェネラルストーンによって身体は20代に若返っていたが、 実際は50歳以上の高齢であり、血気盛んな若々しい肉体と数々の戦いを経験したベテラン超人の 頭脳と精神を併せ持つと言う実質的な実力は1000万さえ遥かに超越した超人だった。 しかし万太郎は激闘の末、死の一歩手前まで追い込まれながらも何とかそのリボーンアシュラマンにも 勝利して来たのである。その時の苦しみに比べれば…もはやパワーだけのスカリエッティなど 怖くなくなっていた。 「ふざけるなぁぁぁ!! 貴様の様な生まれ付いての超人に私の考えが分かってたまるかぁ!!」 『あーっとスカリエッティ! 腕に組み付かれたまま万太郎をキャンバスに叩き付けようとするー!』 スカリエッティはパワーに任せて強引に万太郎をキャンバスに打ち付けようとするが… 「なんの! マッスルアーマー!!」 次の瞬間万太郎の背筋が盛り上がり、その弾力によって受身を取る事でキャンバスに 打ち付けられた衝撃を吸収し、さらにバウンドの勢いで逆にスカリエッティを後頭部から キャンバスに落としていたのである。 「うおぁぁぁ!!」 『万太郎の返し技を受けて後頭部を打ったスカリエッティ! かなり痛そうだー!』 「ほらね! やっぱりあんたはド素人だ! 受身もまるで出来てないじゃないか!」 「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」 頭をフラフラさせながらも怒りに任せて起き上がったスカリエッティは 万太郎に対し連続でパンチを放つ。しかし力任せな大振りのパンチは万太郎に一発も当たらない。 『スカリエッティのパンチの連射砲だー! しかし万太郎には当たらないー!』 「何故だ! 何故当たらん!?」 「そんな力任せなパンチなんか連発しちゃったら余計に体力消耗しちゃうだけだよー! 少しは力抜いてあげれば~?」 「うるさいだまれぇぇぇ!!」 万太郎もかつて力任せな攻撃が脱力した相手に破られて苦戦した事があったからこそ その様な事が言えた。スカリエッティが全身に無駄に力を込めて殴りかかって来るのに対し、 万太郎は全身の力を抜いて柔らかく柔軟性に富ませてスカリエッティのパンチをかわしていく。 かの鉄人「ルー・テーズ」も力を込めれば鋼の様に堅く、逆に力を抜けばゴムの様に しなやかな筋肉をしていたと言う。今の万太郎はそれを体言していたのである。 『なおもスカリエッティのラッシュが続くが万太郎には当たらないー!』 「何で何でだー!? 何であの豚男があんなに強いんだー!?」 「私達が何度袋叩きにしたか分からん奴なのに…。」 スカリエッティを観客席から応戦する戦闘機人達にはこういう状況でこそ真の 強さ…渋さを発揮する万太郎の強さが理解出来なかった。 「それじゃあ今度は僕の番だ!」 『今度は万太郎のパンチがスカリエッティの顔面に炸裂したー!』 万太郎のパンチがスカリエッティの顔面に連続で炸裂しスカリエッティは怯んだ。 ただでさえ万太郎に一発も当たらないと言うのに逆に万太郎に一発食らわされたのでは 身体的なダメージ以上に精神的なダメージが大きかった。 ラフファイターは攻撃を受けた事が無い為に逆にラフファイトに弱い。 これは万太郎が火事場のクソ力チャレンジの最終戦で戦ったノーリスペクトの一人、 ボーン・コールド戦で学んだ事であった。 「ブ…豚男が偉そうな口を叩くなぁぁぁぁ!!」 スカリエッティは万太郎の顔面を再び掴み上げた。そして何度も何度も振り回し… 「これで時空の彼方まで吹っ飛びやがれぇぇぇぇ!!」 『あっとスカリエッティ! 万太郎を凄い勢いで投げ飛ばしたー!』 『これは場外は必至ですよー!』 軽量な万太郎はまるで豪腕投手に投げられた野球ボールの様に吹っ飛んで行くが、そこでロープを掴む。 しかしそのロープでも勢いは殺せずに伸びる伸びる。もう観客席を飛び越えて聖王のゆりかごの 外にさえ出てしまっている。そこでやっとロープの伸びが止まっていたのだが、 万太郎はなおもロープを掴んだままだった。 「ならば…お前に本当の僕の力を見せてやる!! 火事場の…クソ力ぁぁぁぁぁ!!」 次の瞬間万太郎の額に赤く燃え上がる「肉」の文字が現れ、万太郎の全身が眩い オーラに包まれた。これこそ万太郎が内包するオーバーブースト「火事場のクソ力」なのである。 普段93万パワーしか無い万太郎もこの火事場のクソ力発動時にはパワーが何倍にもなる。 万太郎の父スグルも瞬間的に7000万ものパワーを発揮するクソ力を持ち、 神にさえ恐れられて潰されそうになった程の恐ろしい力なのだ。 『出たぁぁ! 万太郎の火事場のクソ力がついに発動したー!』 『今まで様々な奇跡の逆転ファイトを生み出して来た火事場のクソ力が今度は どんな奇跡を見せてくれるのでしょうかー! これは女房を質に入れても見逃せませんね!』 そして万太郎は何百メートルにも渡って伸びきったロープの反動を利用して まるで弓から強引に放たれた矢の様にスカリエッティ目掛けて突っ込んでいた。 前へ 目次へ 次へ
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此処はホテル・アグスタから少し離れた森の中、其処で一人の不死者が消滅した。 名はカシェル、かつて管理局陸士部隊に所属していた局員でありスバルとティアナの同期でもある。 その同期を討ったのはヴィータ、スバル達が所属しているスターズ部隊の副隊長である。 今現場は静まり返っていた、カシェルは討つ事でしか助ける方法が無かった。 しかし…だからといって許される事では無い、スバルはきっと自分に対し憎しみに満ちた瞳で睨んでいるだろう… ヴィータはそう思いつつもスバルの身を案じ様子を伺おうとスバルに目を向けた。 …スバルは一点を見据え茫然自失と化していた、そんなスバルに対し肩に優しく手を当てているティアナの姿もあった。 二人の様子を見たヴィータは目をそらすとグラーフアイゼンを堅く握りしめ苦い顔を醸し出す、すると其処にザフィーラが姿を現した。 ザフィーラは先程までエリオ達の護衛を行っていた。 すると其処にエリオ達のもとへ向かっていたシャマルが現れ、シャマルは早速二人の治療を開始、 それを見届けたザフィーラはこの場をシャマルに任せ、自分はヴィータとともにレザードのもとへ向かおうと此処へ来たと話す。 その話を聞いたヴィータは一つ頷くと、ティアナにスバルの事を任せ二人はアグスタへと向かったのであった。 リリカルプロファイル 第十六話 狂騒劇 此処はホテル・アグスタの上空、レザードのモニターには各隊員達がレザードのもとへ向かっている姿が映し出されていた。 「やはり…あの程度の不死者では足止めにはならないか……」 予め予測は出来ていた、元々あの不死者は足止めに使うのには力不足である、むしろ不死者の“存在”こそが足止めに重要であった。 だが…まさかあの様な“演出”が生まれるとは…レザードは眼鏡に手を当て笑みを浮かべていると、左前方からシグナムが姿を現した。 次に右前方からヴィータが、そして後方からいつの間にか回り込んでいたザフィーラが地上から浮かび上がるように現れ、 少し間を置いて、なのはとフェイトが前方正面より姿を現した。 なのはは依然として俯いたままで、その光景を見たレザードは眼鏡に手を当て笑みを浮かべるとモニターを閉じ話し始めた。 「フフッ…どうでしたか?私の考えた“劇”は……」 「“劇”ですって!?」 フェイトの言葉にレザードは「えぇ」と一言口にし頷くと“劇”の説明を始める。 本来であればもっと強力な不死者による足止めを行うことが出来たのだが、それでは面白く無いと考えた。 其処でレザードは最近造った不死者の中に管理局員を材料にした不死者がいた事を思い出し、それを使った足止めを考案したと語る。 何故彼等を起用したかと言うと、一度不死者化した人間は二度と戻ることは出来ない、そして救う為にはその者を消滅させなければならない。 それはつまり不死者化した管理局員を、同じ管理局員の手によって殺す事を指し示す。 そうなればその時に醸し出されるであろう悲痛な表情も見られる為、彼等を起用し足止めを“劇”と称したと語った。 「結末は知っての通り……とても素晴らしい“劇”となったでしょう?」 そう言うと眼鏡に手を当て笑みを浮かべるレザード、その言葉にフェイトは一歩前に出ようとするが、なのはに肩を掴まれ止められる。 するとなのはは今まで俯いていた顔を上げると、その瞳には悲しみの色が滲んでいた。 そして今まで沈黙を守っていたなのはの口が開き、静かに囁くようにレザードに問いかけた。 「アナタは……」 「ん?」 「アナタはこんな“劇”を私達に見せる為に、彼らにあんな惨い事をしたの?」 「そうだ」 「私達の悲痛な表情が見れる…それだけの為に何人もの一般人や管理局員を犠牲にしたというの?」 「その通りだ」 「くっ!アナタって人は!!」 なのはの問いかけに笑みを浮かべ即答するレザード、その態度にフェイトが一言悪態をつく。 フェイトは産まれが“特殊”な為、人一倍命に対し強い想いを持っている。 それ故に命を冒涜するレザードの言動や行動に対し怒り心頭の想いであった。 だがレザードはフェイトの悪態をさらりと受け流すと更に話を続ける。 「もっとも…今回の“劇”は演者の“アドリブ”があってこその完成度とも言えますがね……」 その言葉に周りが疑問を感じていると、レザードは話の説明を始める。 本来の“劇”の内容とは不死者化した“ただ”の管理局員と六課の対決であったのだが、 材料にした管理局員の中に六課と関わりがある人物が存在していたというのは、レザードにとっても予想外の出来事であったと。 つまり今回の“劇”はレザードが考えたシナリオとは異なる内容、つまりは“アドリブ”が含まれていたと語る。 「まぁ、良い“劇”というのは“アドリブ”が栄えてこそ…とも言えますがね」 そう言うと高笑いを上げるレザード、するとなのはは目を瞑り大きく息を吐く。 そして目を開くと、そこにはいつも笑顔が絶えないなのはの顔からは想像も出来ない、怒りの表情を現していた。 そしてその瞳には静かに…だが激しい怒りを宿しレザードを睨みつけこう告げた。 「レザード・ヴァレス…アナタを逮捕します!!」 その言葉とともになのははデバイスをレザードに向け構えると、次々と構えるメンバー達。 するとレザードの腰につけたナイフが輝き出し魔導書へと変化すると左手に収まる。 そして辺りを見渡すと、こう述べた。 「やはりこうなりましたか…まぁ予測していた事ですし、第一幕を開始しましょう……」 そう言って眼鏡に手を当て対峙するレザード、その中まず最初に動いたのはシグナム。 シグナムは一気に間合いを詰めるとカートリッジを一つ消費し紫電一閃を放つが、 右手に五亡星を中心とした円陣で構成されたシールド型ガードレインフォースを展開され一撃を防がれる。 「どうしました?まさかこの程度ではないでしょう」 「なにを!!」 レザードに挑発され更に力を込めるも、一向に砕ける様子のないシールド、むしろシールドを介してレザードは魔力による衝撃波を撃ち出すとシグナムは吹き飛ばされた。 そしてレザードはシールドを解除するとクールダンセルを唱え、レザードの前には精霊を模した氷の人形が現れる。 氷の人形の手には氷の刃が握られておりシグナムに切りかかるが、 未だ刀身が燃え続けているレヴァンティンによって切り払われた。 一方レザードの後方ではフェイトが見上げる形で位置に付くとハーケンセイバーを撃ち出す。 ハーケンセイバーは弧を描きながら標的であるレザードに向かっていった。 だがレザードはリフレクトソーサリーを展開させ、ハーケンセイバーをフェイトに向け跳ね返した。 「そんなっ!何故!」 「甘いですね、私が使えないとでも?」 そう言って目だけを向け見下ろす形で応えるレザード、その表情に苛つくもフェイトは跳ね返されたハーケンセイバーを迎撃した。 その間にレザードの頭上で待機していたヴィータがラテーケンハンマーの推進力を利用した振り下ろしが襲いかかる、だがそれすらもシールドで防がれてしまった。 「野郎!砕けやがれ!!」 「その割には一歩も動いていませんね」 レザードはヴィータを挑発するとヴィータは歯を噛み絞めカートリッジを消費する。 それを見たレザードは足元に五亡星を描くとその場から消え去る。 場にはヴィータの一撃が虚しく空を切る音が響いた。 「転送魔法だと!?野郎!何処に!!」 「……っ!ヴィータ!上だ!!」 シグナムの呼びかけにヴィータは上を見上げるとレザードが右手をかざしている姿があった。 レザードはファイアランスを唱えると二つの炎がヴィータに向かって襲いかかる。 だが、ヴィータの前にザフィーラが立ちふさがると障壁を展開させ、ファイアランスを弾いた。 「ほう……ならばこれはどうでしょう?イグニートジャベリン」 そう唱えるとレザードの周りに光の槍が五つ姿を現れ、一本ずつ撃ち出した。 まずは一本目、イグニートジャベリンは容易くザフィーラの障壁に突き刺さると亀裂が生じた。 続いて二本目、これも同様に突き刺さり亀裂が生じると先程の亀裂と繋がり障壁全体的に走る。 このままではマズいとザフィーラが考えていると、なのはから念話が届きヴィータと目を合わせ頷く。 そして三本目を撃ち出すとザフィーラの障壁を容易く打ち砕いた。 だが障壁が砕けた瞬間、ヴィータとザフィーラは左右に展開し中央からなのはのディバインバスターがレザードに向かって延びていった。 レザードは残りのイグニートジャベリンを撃ち出すがディバインバスターの勢いにより弾かれてしまう。 すると今度はシールドを展開させ、ディバインバスターを受け止めたのであった。 「なのはのディバインバスターを受け止めやがった!?」 「やるな…あの男」 ヴィータは驚きザフィーラはレザードの実力を認める中、なのはは今までの戦況を見るやロングアーチと連絡を取った。 「どないした?なのは」 「はやてちゃんお願い!能力リミッターの解除を承認して!!」 「なんやて!?」 なのはの言葉に思わず椅子から飛び上がるはやて。 なのはの見立てではレザードはSランクの実力者、リミッターがかかっている自分達では歯が立たないと語る。 しかしはやては顎に手を当て考え込んでいた、そんなはやての態度になのははダメ押しとも言える言葉を放つ。 「今!この場でアイツを捕まえなきゃもっと被害者が増える!私や…スバルみたいな思いを受ける人が大勢出てくる!! それだけは……なんとしても防がなくっちゃ!!!」 なのはが放ったその言葉は、はやての心に深く響き頷くと意を決した。 「わかった、せやけど120分や、それ以上はアカン!えぇな」 「はやてちゃん!……120分もあれば十分だよ!!」 そう言って連絡を切るなのは、はやては椅子に座るなり一つ溜め息を吐くと机に肘を置き手を組むと考え込んでいた。 これは危険な賭である、何故ならこの先起きるであろう“未曾有の災厄”の事を考えれば、今此処で切り札である能力リミッターを解除するのは得策ではない。 だがその“未曾有の災厄”がレザードの手によって行われるものだとしたら、此処で逮捕する事によって未然に防ぐ事が出来るのかもしれない。 しかし的が外れれば切り札の無駄使い、更に此方の戦力を把握される可能性がある。 そんなハイリスクを背負ってでも、なのはの要望に答えたのは、はやてもまたなのはと同じ思いを感じていたからだ。 それにリミッターを解除したなのは達に適う者などいない……例え相手がSランクの実力者であっても… そう言い聞かせるかの如く自分の判断を信じ、はやてはモニターを見つめていた。 「みんな!はやてちゃんからリミッター解除の承認が下りたよ!!」 なのはのその一言に頷くと一斉にリミッターを解除するメンバー達。 リミッターの外れたリンカーコアは活性化し、魔力を作成していく。 そして体内は本来の魔力数値で満たされると一斉にレザードを睨むメンバーであった。 「成る程……今まではリミッターが掛かっていたのですか…ならばその本来の実力を見せて―――」 「随分と良く喋る男だ」 レザードの後方から声が響きレザードは振り向くと、其処にはシグナムがいつの間にか回り込んでおり、紫電一閃を放つ寸前であった。 レザードはとっさにシールドを展開するが、先程とは異なり呆気なく切り崩された。 シールドを崩されたレザードは後方へ飛びながらアイシクルエッジをシグナムの正面に向け撃ち出す、だがアイシクルエッジは次々と撃ち落とされていった。 その間にヴィータはレザードを見下ろす位置に立つと、自分の目の前に鉄球を8つ並べ次々と魔力が覆っていく。 そして魔力に覆われた鉄球は次々とグラーフアイゼンで撃ち抜いた、シュワルベフリーゲンと呼ばれる誘導弾である。 シュワルベフリーゲンがレザードに迫る中、ヴィータの攻撃を跳ね返そうとリフレクトソーサリーを展開させ攻撃を受け止める。 「くっ!重い!」 だがシュワルベフリーゲンは一つ一つが重く威力が高い為、的確にヴィータへ跳ね返す事が出来なかった。 レザードは仕方なくシュワルベフリーゲンを周囲に跳ね返している最中、上空からヴィータがラテーケンハンマーを振り下ろす。 レザードは先程と同様シールドを展開させるが、先程とは異なり容易く打ち砕かれた。 「まだまだぁ!!」 すると今度は先程の一撃の勢いを利用してその場でカートリッジを消費させるとヴィータは回転し、ラテーケンハンマーを連続で撃ち出そうとする。 だがレザードはヴィータが回転している隙をついて移送方陣でヴィータの後方上空へと移送した。 移送後レザードはヴィータに向けファイアランスを撃ち出すが、 ヴィータは回転を止め左手をかざすと三角形の盾パンツァーシルトを展開させて攻撃を防いだ。 「ザフィーラ!!」 「承知!!」 ヴィータの掛け声に呼応する様にザフィーラはレザードに迫っていく。 するとレザードはザフィーラに向けイグニートジャベリンを撃ち出す。 だがザフィーラは左手に障壁を展開させると先程とは異なりイグニートジャベリンを弾き飛ばしながらレザードの目の前まで向かう。 そして右手に魔力を乗せ突き抜けるように振り抜くが、レザードは半球体型のバリア型ガードレインフォースを展開させ攻撃を防いだ。 しかしザフィーラは気にも止めずバリアの上から何度も左右の拳を叩き付ける。 その衝撃はレザードにも伝わっており、更にバリアにヒビが生じ始めると、それを見たザフィーラは勝機とばかりに右手で左拳を包み込むように握り絞め振り上げた。 「小賢しい…」 レザードは一言呟くと振り下ろしに合わせてバックステップで回避、更に右手をザフィーラにかざした。 その瞬間ザフィーラの口の端がつり上がると、レザードは手足だけではなくで体中をバインドで縛られた。 「んっ!?これは…」 「掛かったな」 先程のザフィーラの攻撃は囮で本命はこのバインドによる拘束が目的であった。 まんまと掛かったレザードであったが、バインドを外そうと魔力を高める。 その間に目の前にいたザフィーラが退散すると、上空に光を感じレザードは目を向けた。 レザードから見て左側上空にエクシードを起動させたなのはと、右側上空でザンバーフォームを構えるフェイトの姿があった。 二人はカートリッジを二発消費すると、レイジングハートの前に流星のように魔力が収束し、バルティッシュの刀身には強烈な雷が蓄積していった。 そして――― 「スターライト……」 「プラズマザンバー……」 『ブレイカァァァー!!』 二人が声を上げた瞬間、魔力砲は解き放たれ桜色の魔力砲と金色の魔力砲は真っ直ぐレザードに向かい直撃した。 だが二人の攻撃はまだ終わってはいなかった。 二人は間を徐々に詰めて行き二人の背中が重なり合うほどまで詰め寄ると、デバイスを重ねこう叫んだ。 『ダブルブレイカァァァー!!』 次の瞬間、デバイスから撃ち出されていた魔力砲が混ざり合い、螺旋を描きながらレザードが縛られた場所を飲み込みそのまま大地に突き刺さる。 そして螺旋を描いた魔力砲が消えると、キノコ雲のような土煙を高々と立ち上らせたのであった。 その様子を二人は上空で見つめており、その二人を囲むようにシグナム、ヴィータ、ザフィーラが集まっていた。 「………凄い…これがリミッターを外したフェイトさん達の実力……」 一方地上ではスバル達と合流したエリオ達が隊長達の戦いを見守っていた。 そしてシャマルは先程はティアナの、今はスバルの疲労を回復させていた。 スバルは依然として呆然自失としており、みんなの呼びかけにすら反応しなかった。 ティアナはシャマルに事情を説明すると、シャマルはスバルを見つめ落ち込む表情を見せる。 すると今度は顔を背け苦い顔を醸し出していた。 シャマルは自分の無力さを噛み絞めていた、生まれて幾年月、風の癒し手と称され様々な怪我に携わってきた。 だが心の傷を癒やす事は出来ない、つまりスバルの痛みを癒せないのだ。 それでもせめてスバルの疲れた体を癒やす位はしようと静かなる癒しをかけていたのだ。 一方ティアナはシャマルにスバルの身を任せエリオ達と共に隊長達の戦いを見守っていた。 エリオは一言漏し目を輝かせて見守っており、キャロもまたフリードリヒを抱きかかえながら見守っていた。 二人の心には安堵感に満ち溢れていたが、その中でティアナは一人冷静に戦況を見据えていた。 おかしい、何かがおかしい…確かにリミッターを外した隊長達の力は凄まじくティアナの想像を超えていた。 加えてフェイトはザンバーフォームを起動させ、なのはに至っては短期決戦用のエクシードを使用している。 まさに“無敵を通り越して異常”な戦力、その異常な戦力を“たった一人”の魔導師に向けられている。 …寧ろ今の状況こそ異常では無いのかと考えるティアナ。 幾らあのレザードが強者であってもSランクオーバーもしくはそれに準する魔導師五人で相手にする程なのだろうか? もしそうならレザードはあの異常な戦力と対等の力を持っていることを指す。 そんな馬鹿げた事を考えつつも、なのはの姿を見上げる。 なのははあれ程の収束砲にコンビネーション攻撃を仕掛けたにも関わらず、なのはの瞳には未だ警戒の色が滲んでいた。 だとすれば、なのははレザードを倒したという確固たる手応えを感じてはいないのではないか? そんな有り得ない事を考えるも、背中に冷たいモノを感じるティアナであった。 一方舞上げられた土煙の中、その中央の場でレザードは大の字を描いて寝そべっていた。 レザードは上半身だけを起こすと手の感覚を調べる、次に自分の服装を調べた。 服は舞上げられた土煙のせいで砂を被っており、レザードは眼鏡に手を当て頭を横に振る。 「やれやれ…一張羅が台無しだ……」 そう答えるや空を見上げるレザード、空は未だ舞い上がった土煙に覆われており、太陽も朧気になっていた。 そこでレザードはモニターを開きルーテシアと連絡を取る。 「どうしたの博士?」 「ルーテシア、ガリューの方はどうなっていますか?」 「……………………」 その言葉に沈黙するルーテシア、レザードは首を傾げると意を決したように話し始めた。 ガリューは無事アグスタへの潜入に成功しスカリエッティの依頼品を無事に回収、 続いてレザードの依頼品を回収に向かったところ、一つは回収したのだが もう一つはある“ハプニング”により目下捜索中で暫く時間が掛かると告げた。 それを聞いたレザードは呆れるように頭に手を当て振る。 「仕方がありませんね、ではもう少し時間を稼ぎましょう……」 「大丈夫博士?ゼストを向かわせようか?」 「いえ…それには及びませんよ」 そう言うとルーテシアと別れの挨拶を交わすとレザードはモニターを消し、これからどうするか考えた。 彼女達の攻撃があの程度であれば、このままでも充分時間を稼ぐ事は出来る。 だがそうなると攻撃を全て受け止めなければならない、それにやられっぱなしというのも面白くない。 「やはり…リミッターを一つ解除するしかないですね」 考えを纏めたレザードはゆっくりと立ち上がり空を見上げていた。 一方上空では、なのはとフェイトを中心に舞い上がった土煙の様子を見つめていた。 だが未だ動きがない為かヴィータが業を煮やし問い掛ける。 「なぁシグナム、やったんじゃねぇか?」 「さぁ…どうだろうな、油断は出来ん」 「なのははどう思う?」 「……………………」 ヴィータの問い掛けに警戒を促すような答えを出すシグナムに、フェイトの呼び掛けに一切答えず土煙を見つめるなのは。 土煙も徐々に薄くなっていき地上が見え始めている中、地上にはレザードが膝あたりの砂を叩きつつなのは達を見上げていた。 その光景にやはり…といった様子でデバイスを構えるなのは、それを皮切りに他のメンバーも構え始める。 それを地上で見ていたレザードは眼鏡に手を当てこう言い放った。 「成る程…どうやら貴方達を侮っていたようですね…ならばこちらも……」 その言葉の後にレザードの足元から青白く光る五亡陣が現れると更に言い放った。 「ネクロノミコン、能力リミッター解除、モードII……グングニル!!」 するとレザードに掛けられていたリミッターが外れリンカーコアが活性化すると体はふわりと浮かび上がり体から青白い魔力が溢れ出す。 溢れ出した魔力は周りの木々を薙ぎ倒すと徐々に小さくなっていき右手に炎のような形で揺らめく。 レザードはその魔力をかき消すように振り払うと今度は左手に持っていた魔導書が輝きだした。 魔導書は柄の両端に巨大な両刃の刃が付いた槍へと変わりレザードの右手に収まった。 モードIIグングニル、かつてレザードが居た世界に存在する、 神の世界アスガルドを支える四宝の一つで、神の王オーディンが所有していた武器を模倣した形態である。 一方上空ではレザードの魔力に唖然としていた。 あれだけの魔力を保有していながら今までリミッターが掛かっていた事に。 おそらく今のレザードの魔力は自分達の想像を超えているであろう、だが此処で屈しる訳にはいかない。 そう隊長達は気を取り直しレザードを睨みつける。 そしてレザードは地上からなのは達を見上げこう述べた。 「では……最終幕を始めましょうか」 そしてなのは達に向けグングニルを振り払うと衝撃波を作り出し、衝撃波はなのは達に直撃した。 なのは達は叫び声を上げながら吹き飛ばされるが、すぐに体制を立て直し地上を睨みつける。 地上には既にレザードの姿はなく、なのは達はレザードを探していると更に上空にてレザードを発見する。 「野郎!いつの間に!」 「待て、私が行こう!」 ヴィータが飛び出そうとする中、シグナムに止められシグナムはレヴァンティンを構えた。 「レヴァンティン!カートリッジロード!!」 レヴァンティンからカートリッジが二発排出されると、刀身に紅蓮の炎が纏いレザードとの間合いを詰め切りかかる。 だがシグナムの紫電一閃はレザードのシールドに阻まれてしまう。 「ほぅ……そのデバイスの名はレヴァンティンと言うのですか…成る程…貴様の能力によって炎の魔剣を体現させている訳か」 「貴様!何を言っている!!」 「だが…我がグングニルと同様、オリジナルとは程遠い!!」 レザードは意味深な台詞を吐くとグングニルをシグナムに向け切り払う。 それによって発生した衝撃波がシグナムに直撃し吹き飛ばされた。 それを見たヴィータはレザードとの間合いを詰める。 ヴィータはグラーフアイゼンをギガントフォルムに変えるとカートリッジを二発消費させレザードに打ち込む。 ギガントハンマーと呼ばれるヴィータのフルドライブから繰り出される一撃である。 だがレザードはヴィータのギガントハンマーをグングニルで防いだ。 「バカな!アタシのギガントハンマーをデバイスで受け止めやがった!!」 「材質が違うのですよ」 そう言うとレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせるとヴィータにかざした。 「ダークセイヴァー」 次の瞬間、ヴィータの右下・左下・上後方に闇の刃が現れ、それぞれ右わき腹・左わき腹・延髄あたりを貫く。 更に右上・左上・下後方に先程と同様の闇の刃が現れると、右肩・左肩・腰のあたりを貫き、 またもや右下・左下・上後方に先程と同様の闇の刃が現れると同じく右わき腹・左わき腹・延髄あたりを貫いた。 「ヴィータちゃん!!」 「安心しなさい…非殺傷設定されていますから死にはしませんよ…痛みは伴いますが」 そう言うとヴィータを貫いた闇の刃が消え力なく落ちるヴィータ。 その間にザフィーラが正面から襲いかかる。 「おのれ!よくもヴィータを!!」 「次は貴方ですか……先程貴方には一杯食わされましたね」 そう言って手をかざすとザフィーラの手足に赤いバインドに、胴には青いバインドによって縛られた。 「くっ!これは!!」 「無駄ですよ、その赤いバインド、レデュースパワーは縛った対象の力を抑え、 青いバインド、レデュースガードは縛った対象の防御を抑える……その意味はわかりますね?」 そう言うとグングニルを振り上げるレザード、ザフィーラはバインドを外そうと力を込めるが思うように力が入らなかった。 ザフィーラはなす統べなくレザードの攻撃を受け吹き飛んだ。 すると今度はフェイトがトライデントスマッシャーをレザードに放つ。 最初に撃ち出された直射砲を軸に上下に直射砲が伸び、三本の直射砲がレザードに向かって襲いかかる。 だがレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせライトニングボルトを放つ。 ライトニングボルトはトライデントスマッシャーを打ち破りフェイトに直撃した。 すると今度はなのはがエクセリオンバスターを撃ち込む。 「エクセリオン……バスター!!」 「フッ……プリベントソーサリー」 するとエクセリオンバスターから黄色い魔力の鎖が現れ、巻き付くとエクセリオンバスターは徐々に拡散し消滅した。 なのはは驚く表情を見せるとレザードは得意気にバインドの説明を始めた。 プリベントソーサリー、レザードがこの世界に合わせた魔法で、縛った対象の魔力を封じる効果を持つという。 つまりそれは魔法を縛れば魔力の運動を止められ消滅し、 肉体を縛ればリンカーコアの動きを封じられ魔法が使えなくなると語る。 そしてレザードは眼鏡に手を当てると更に話しを続けた。 「どうしました?さっきまでの威勢は何処へ行ったんでしょう? それとも…フフッ犠牲者がでなければ実力が発揮出来ないとか?」 そう言うと左手を地上にかざすレザード、左手は先ほどと同様、魔力に覆われていた。 なのはとフェイトはレザードがかざす手の方へ目を向ける、すると其処にはティアナやエリオ達の姿があった。 まさか!といやな予感がしたなのはは、とっさにティアナ達に念話を送る。 (ティアナ!みんな!急いでその場か―――) 「…バーンストーム」 そう言うとレザードは指を鳴らすと纏っていた魔力が消える。 そしてスバルが居た場所を中心に直径数百メートルの部分が三度に分けて大爆発を起こし、その光景を目の当たりにするフェイト。 するとレザードはバーンストームの説明を始める、バーンストームは爆炎を利用した魔法、 そしてレザードの手によって非殺傷設定されている為、死ぬ事は無いと。 だがレザードの炎は特別で対象が気絶するか、かき消すか、そして非殺傷設定が解除されてあれば燃え尽きるかしないと、炎は消える事が無いと話す。 しかしバーンストームの跡地に残された炎は見る見ると消えて来ており、その状況に疑問を感じるレザード。 「おや?思いの外、炎の消えが早い……そうか!相手が弱すぎて最初の爆炎だけで気を失ったのか! ならば…その後に訪れるハズであった身を焼かれる苦しみを味わなくて済んだようですね」 そう言って高笑いを上げるレザード、フェイトは依然として跡地を見つめていた。 あの場にはエリオ達の姿もあった…それが一瞬にして消されたのである。 するとフェイトは怒りで目の瞳孔が開き、髪をふわりと逆立てると、ソニックムーブでレザードの後ろをとり、 ブリッツアクションを用いて腕の振りを早めたジェットザンバーを放つ。 だがレザードはとっさにシールドを展開させフェイトの攻撃を防ぐ。 互いの攻防により火花が散る中、フェイトはレザードを睨み付け吐き捨てるように叫んだ。 「アナタは!命をなんだと思っているんですか!!」 「ほぅ……“人形”が生意気にも命を語るか……」 その言葉に動揺を覚えるフェイト、その隙を付いてレザードはグングニルでフェイトの子宮辺りを突き刺す。 グングニルにはアームドデバイスと同様、非殺傷設定されてあれば肉体を傷つけず、 肉体を傷つけた際に生じるであろう痛みのみを与える効果を持っている。 「かぁ!?……はぁぁぁ……ぁぁ…」 「“人形”が…処女〈おとめ〉を失う時の様な喘ぎ声を上げるとは…な!」 そう言ってレザードは更にグングニルを深く突き刺し更に突き上げた。 グングニルによって深く突き上げられた痛みによって、フェイトは目を見開き涎を垂らしていた。 「はぅ!……ぁ…ぁぁああ!!」 「キツいですか?なぁに…すぐにこの感覚にも馴れます…よ!」 更に深く突き上げ、グングニルは尾てい骨辺りを超えて貫き、腰から刃を覗かせていた。 「カハァ!!」 「とは言え所詮はただの“人形”……貴方が相手では木偶と情交するに等しいか…」 「わた…しを…“人形”と……呼ぶな!!」 涎を垂らし目には涙を溜めながらも必死に抵抗するフェイト。 するとレザードはグングニルを引き抜きフェイトの顎を掴み、顔を近づけこう言い放った。 「“人形”と呼ばれるのがそんなに不服か?…ならばこう呼んでやろう……プロジェクトFの残滓よ」 「ッ!!!キッキサマ!!」 フェイトの怒りは頂点に達しレザードの手を振り払うとバルディッシュをまっすぐ振り下ろした。 だがレザードはフェイトの怒りの一撃をたやすく受け止めていた。 「そんな!フィールド系?…いや支援魔法!?」 「ご名答…正解した貴女にはコレを差し上げましょう…」 そう応えるとレザードはフェイトに手を向ける、手には魔力が纏われており、魔力は手のひらを介して球体へと変化、それは徐々に加速していった。 それを見つめるなのはは見たことがあった、いや確信していた、あれは自分の十八番とも言える魔法であると。 「確か……名は」 「フェイトちゃ――」 「ディバインバスターでしたか」 次の瞬間、レザードから青白いディバインバスターがフェイトに向け撃ち出された。 フェイトはディバインバスターに飲み込まれ吹き飛ばされていく。 だが後方でザフィーラがフェイトの救出に成功していた。 「何で!アナタがディバインバスターを!」 「ただの魔力を加速させて放出させるなど、私が出来ないとお思いで?」 レザードは様々な魔力変換が可能な存在、魔力を加速させて撃ち出すことなど造作もないと不敵な笑みを浮かべ話す。 その中レザードにルーテシアから念話が届く。 内容は今し方ガリューは目的の品を回収し無事アグスタを脱出、現在ルーテシアの元へ向かっているという。 (…わかりました、ではルーテシアはガリューが到着後すぐに転移して下さい、しんがりは私が務めましょう…) (わかった…やりすぎないでね) ルーテシアは一言残し念話を切る、それを確認したレザードは辺りを見渡すとなのはを中心にメンバーが募っていた。 レザードは一通り見渡すと肩をすくめこう言い放った。 「さて…貴方がたの実力も見えてきた頃ですし、そろそろ私は退散でもしますか」 「なっ逃げるの!それに…私達がそれを許すと思うの!!」 なのはのその言葉に大笑いするレザード、するとレザードは眼鏡に手を当てこう言い始める。 「これは面白い事を言う、貴女は自分がどのような状況かまるで解っていないのですね」 「それはどういう意味!」 「こう言う事ですよ」 そう言ってレザードは移送方陣で更に上空へと上がる。 なのは達は必死に追いかけているとレザードの足元に、 巨大な複数の環状で構成された多角形の魔法陣を展開、そして左手をなのは達に向け詠唱を始める。 「…闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ…」 するとレザードの目の前に黒い球体が姿を現す。 球体の中は幾つか稲光が見えていた、そしてレザードは更に詠唱を続ける。 「彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!」 すると球体は見る見る膨らんでいきレザードの姿すら見えないほどにまで巨大化していた。 「あれは……まさか広域攻撃魔法か!?」 「こんな場所で撃ち出そうと言うの!」 なのは達は上空を見上げレザードの魔法を分析する。 するとレザードの声だけが響いてきた。 「安心なさい…非殺傷設定されてあります…ですので……」 レザードの姿は魔法に隠れ見えないが、不敵な笑みを浮かべているだろう声でこう告げた。 「存分に死の恐怖と苦痛を堪能して下さい…」 そしてグラビティブレスと叫ぶと漆黒の球体はなのは達に向かっていった。 なのは達は苦い顔をしながら迫ってくる球体を睨みつけると回避を否がす。 だがヴィータがそれに反発する、何故ならなのは達の後ろにはアグスタが存在していた。 アグスタの中にはまだ局員達が多数警備しており、今自分達が避けたらアグスタに直撃してしまうからだ。 するとザフィーラが一歩前に出ると障壁を最大にして展開、グラビティブレスを受け止めようとする。 その間になのは達はアグスタに残っている局員達に連絡を取ろうとした瞬間、 ザフィーラの障壁が脆くも打ち崩され、ザフィーラを飲み込んでいった。 更になのは達をも飲み込み、グラビティブレスは無情にもアグスタを包み込むように直撃した。 …グラビティブレスの中は詠唱如く、無数の雷が蠢きあい、内にあるモノ全てを驟雨の如く打ち付けていた。 暫くするとグラビティブレスは一つの稲光を残し消え、跡地にはアグスタが瓦礫の山となっており、一部は砂塵と化していた。 その様子を上空で見届けたレザードは眼鏡に手を当てながら口を開く。 「我ながら中々の威力ですね」 そして高笑いをしながら移送方陣でその場を後にした。 一方、一部始終見届けていたロングアーチは静寂に包まれていた。 誰もが今まで見ていた光景が偽りであると考えるその中で、はやての檄が飛ぶ。 「何を惚けとる!早よ現場に救護班を急行させ!いくら非殺傷設定の攻撃だとしても、あの量の瓦礫に埋められたら圧死か窒息死してまう!!」 その言葉に端を発し一斉に動き出すロングアーチ、その中はやては右手を握ると思いっきり机を叩く。 そして苦い表情を表しながらモニターを見つめ吐き捨てるかのように言葉を口にした。 「私の……私の判断ミスや!!」 一方ゆりかごに戻ったレザードは通路を歩いていると、ルーテシアがレザードの帰りを待っていた。 ルーテシアはスカリエッティに頼まれた品物を渡しナンバーズにも品物を渡し、残りはレザードの品物だけだと話す。 ルーテシアはレザードに一つのパピルスを渡す、パピルスには設計図のような物が描かれていた。 そしてルーテシアはその品物が何なのか問いかけた。 「博士…それ何なの?」 「これですか?」 ルーテシアの疑問に対し、パピルスに目を通しつつ笑みを浮かべこう答えた。 「“ゴーレム”の設計図ですよ…」 前へ 目次へ 次へ
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高町家の末っ子、高町なのはの朝は早い。 なのはは寝ぼけ眼をこすりながら立ち上がった。 「おはよう、レイジングハート」 レイジングハートに朝の挨拶をすませ、着替えを始める。 今日は寒そうなので暖かい服を選んだ。 着替え終えた後、魔法の練習を行うため桜台・登山道を目指す。 まだ日も昇っていない薄暗い海鳴市を一人歩く。 (う~、もうちょっと服を着てくれば良かったかな?) 予想を越える寒さになのはは体を震わせつつ先を急ぐ。 それから15分後、ようやく登山道に辿り着く。ここまで来れば残りは少しだ。 なのはは元気良く登山道を登り始める。 それと同時に日が昇り始め薄暗かった海鳴市が段々と明るくなっていく。 その光景を登山道が眺めるなのは。 (……綺麗だなぁ) なのははこの景色が大好きだった。 日光の反射によりキラキラと光る宝石のような海鳴市。 まるで、早起きした自分への神様からのプレゼントのように感じる。 そんな景色を見ながら歩を進めていくといつもの場所についた。 そして、いつものようにエリアサーチを行う。 エリアサーチを行いながらなのはは思う。 (ヴァッシュさんを見つけた時も今日みたいに寒かったなぁ……) ――早いものでヴァッシュさんが高町家で生活するようになって一週間がたった。 ヴァッシュさんも段々と翠屋での仕事にも慣れ、なかなか楽しそうにアルバイトをしている。 でも片腕が無いのであまりお客さんの前出る仕事はしていない。もっぱら、厨房で皿洗いやケーキの装飾などをしている。 ……それと、これはお姉ちゃんから聞いたことだけど、ヴァッシュさんは最近、翠屋に来る女子高生の間で人気になっているらしい。 なんでも『厨房にいる隠れ美男子』と呼ばれ密かに思いを寄せる人までいるらしい。 そのことをヴァッシュさんに言ったら、手を叩いて喜んでいた。 なのはは、その時のヴァッシュの様子を思い出し、おもわず笑ってしまう。 『周辺に人の反応はありません』 そんななのはにエリアサーチを終えたレイジングハートが声をかける。 「よし、それじゃ頑張ろっか。それで、今日はどんな訓練するの?」 『今日は広域防御魔法の練習をしましょうか』 「うん、分かった」 なのははコートとレイジングハートをベンチの上に置き、広場の中央へと進む。 そして、立ち止まり目をつぶる。 深く息を吸い、集中力を高めていく。 魔法を使用する上で大事なことは集中すること。 集中力が切れれば魔法が暴発することだってあり得る。 ――それは分かっている。分かっているんだけど、どうも上手く集中出来ない。 最近はいつもそうだ。何故か集中することができない。それは魔法に限ったことでは無く、勉強の時や遊んでいる時もそうだ。 この前もアリサちゃんやすずかちゃんに心配された。 ――何でだろう? いや、分かっている。 自分はあることで悩んでいる。 『……今日は止めときましょう、マスター』 「えっ?」 いつの間にか全く違うことを考えていたなのはに飛んできたレイジングハートからの言葉。 その意味が分からずつい聞き返してしまう。 『今の状態で魔法を使用しても失敗するだけです』 「そ、そんなこと……」 『いえ、失敗します』 なのはの言葉を遮りレイジングハートは続ける。 『先程のマスターは明らかに集中力を欠いていました。そんな状態では成功するわけがありません』 辛辣な言葉を飛ばしてくるレイジングハートになのはは一言も言い返せない。 『どうしたんですか、マスター?最近様子が変ですよ』 普段レイジングハートはこんなに喋る子ではない。 そのレイジングハートがここまで言うということは自分は相当な状態なのだろう。 『……ヴァッシュ・ザ・スタンピードのことですか』 その言葉に驚くなのは。 「なんで分かったの……?」 『マスターの様子を見ていれば分かります』 その言葉になのはは顔を歪める。そしてうつむき、ポツリと呟く。 「……分からないの。管理局にヴァッシュさんのことを伝えた方がいいのか、伝えない方がいいのか……」 ――なのはは悩んでいた。 ヴァッシュに管理局のことを伝えるべきか、伝えないべきか。 ――ヴァッシュさんは高町家に残ってくれた。 それはとても嬉しいことだ。……でも、それはずっとでは無い。 管理局にヴァッシュさんのことを伝えたらすぐにではないにしろ、ヴァッシュさんの世界は見つかると思う。 そして、自分の世界へ戻る方法が分かればヴァッシュさんはあの時と同じように悩むだろう。元の世界に戻るか、このまま高町家に残るか、を。 あの時のヴァッシュさんはとても苦しそうだった。 ――あんなヴァッシュさんを見るのはもう嫌だ。 でも、管理局にヴァッシュさんのことを伝えなかったら、ヴァッシュさんは一生元の世界に戻ることはできないと思う。異世界に帰るということはそれほどのことだ。 ――それをヴァッシュさんが喜ぶのか? もちろん自分にとっては喜ばしいことだ。 でもヴァッシュさんがそれを望むのか。それが分からない。 あの時は高町家に残る道を選んでくれたけど、あの時のヴァッシュさんには並々ならぬ覚悟を感じた。 その覚悟がヴァッシュさんを辛い世界で命を賭けた旅をさせているんだと思う。 その覚悟のことを知らない自分がヴァッシュさんの道を閉ざして良いのか? ――それがなのはには判断出来ない。 『……マスター、家に戻りましょう。今日は休日です、ゆっくりと休んで下さい』 レイジングハートは何も答えてくれない。 それはそうだ。これは自分が考えなくてはいけないことだ。 そう、ヴァッシュさんを引き止めた自分が。 「……そうだね。戻ってからゆっくり考えよっか」 なのはは笑みを作る。 レイジングハートを心配させないように。 だが、その笑みを見てレイジングハートの不安はつのる。 なのははそんなレイジングハートに気づくことなく、歩き始める。 ヴァッシュのことで頭を悩ませながら。 ■□■□ 「おはよう!」 家に着いたなのはが最初に見たのは笑いながら片手をあげるヴァッシュの姿だった。 まだ朝早くなのに元気な人だ。 「……おはよう、ヴァッシュさん」 陽気なヴァッシュとは対称的になのはは暗い。 そんななのはにヴァッシュが心配そうな顔をする。 「どうしたんだい?何か元気がないみたいだけど」 「な、なんでもないよ!」 なのはは慌ててごまかし笑いを浮かべる。 「……だったらいいんだけど」 訝しげな眼でなのはを見つめるヴァッシュ。 「そ、それよりヴァッシュさん、早起きですね!」 そんなヴァッシュを見てなのはは話題を変える。 「まぁね。前の生活で馴れちゃったからかなぁ、つい早起きしちゃうんだよ」 なのはの気持ちを察したのかヴァッシュもその話題にのる。 「へ~そうなんですか?」 「まぁ、早起きは三文の得ってね。早起きは良いことだよ」 ヴァッシュはヘラヘラと笑いながらそう言う。 だが、なのははこの言葉に対し―― 「……ヴァッシュさん、お年寄りみたい」 ――爆弾を落とした。 しかも、恐ろしい事にこの天然娘は自分が爆弾を放ったことに気付いていない。 「ヴッ!」 ヴァッシュの動きが止まる。 そりゃあ百数十年も生きてはいる。こんなことを言われたことが無いわけではない。……だが、これだけ純粋な子に言われるとショックだ。 ――負けるなヴァッシュ!幾度となく死線をくぐり抜けてきたお前だったら耐えられるさ! 自分自身に活を入れ、何とか気持ちを立て直すヴァッシュ。 だが、それも―― 「あ、そーいえばお兄ちゃんとお姉ちゃんも言ってたよ。ヴァッシュさんがお年寄りみたいだって」 ――再び投下された爆弾に粉砕された。 まさに会心の一撃。 何とか耐えていたヴァッシュもその言葉に崩れ落ちる。 「わ、わ、どうしたの!?ヴァッシュさん!」 いきなり机に突っ伏したヴァッシュを見て、なのは驚く。 「……いやいや、全然気にしてないよ……うん」 それから数分間ヴァッシュが立ち直ることはなかった。 ■□■□ 「……あ、そういえばなのは宛てでこんなのが届いてたよ」 ようやく立ち直ったヴァッシュはそう言い、懐からある物を取り出した。 「フェイト……って書いてあるのかな?」 それは小さな小包だった。 それを見てなのはは目を輝かせる。 「フェイトちゃんからだ!」 「フェイト?誰だい、それ?」 「私の友達です。……今は遠くにいて会えないけど」 なのははヴァッシュから小包――フェイトからのビデオメールを受け取ると嬉しそうにそれを見つめる。 ヴァッシュはそんななのはを見て理解した。 フェイトという子となのはがどれほど深い友情で結ばれてるかを。 「……僕も会ってみたいなぁ」 「なら今度遊びに来る時紹介しますよ!」 「本当かい?いや~楽しみだなぁ」 ヴァッシュはそう言い机の上に置いてあった朝刊を広げ読み始める。 ――今では楽々と新聞を呼んでいるが、ヴァッシュさんは全くと言っていい程、日本語の読み書きが出来なかった。 聞いたり話したりは日本人と見紛うくらい上手いんだけど、何故か読み書きになるとサッパリになってしまう。 まぁ、異世界の人なんだから仕方がないのかもしれないけど……。 それとお金の単位も元の世界と違うらしく、その事にも四苦八苦していた。 だが、驚いたのはここからだった。 何と、ヴァッシュさんは二週間で日本語の読み書きをほぼマスターしてしまったのだ。 これにはお父さんやお母さん、お兄ちゃん達も驚いていた。 当のヴァッシュさんも驚いていて、「いや~僕には勉強の才能があるのかもね」などとお気楽なことを言っていた。 今では新聞を読んだり、テレビを見たりしながらメキメキとこの世界の知識を身に付けている。 (フェイトちゃんもヴァッシュさんと会ったら喜んでくれるかな?) 黙々と新聞を読むヴァッシュを見ながらなのはは考える。 フェイトちゃんは少し内向的だけどヴァッシュさんとなら直ぐに仲良くなれる気がする。 ふと新聞から顔を上げたヴァッシュさんと目があった。微笑みかけてくる。 見ているものも和やかな気持ちになる笑み。 それを見てなのはは嬉しくなる。 ――ヴァッシュが毎日を楽しそうに過ごしている。 ――あの時のつらそうな顔はもうしていない。 それが嬉しい。 それどころか、ヴァッシュさんが来てくれたお陰で騒がしかった高町家ももっと騒がしく、そして楽しくなった。 ――ずっとこの日々が続いてくれれば。 心の底からそう思う。 そこまで考えなのはの顔に暗い色が灯る。 ――でも、分かってもいる。ヴァッシュさんは異世界の人だ。いつかはこの楽しい日々も終わりを告げる。 だけど、私が管理局に伝えなければ?この日々は終わらないかもしれない。 ――ヴァッシュさんはそれで良いと思うのか? 先ほど、レイジングハートに話した悩みがまた頭の中に浮かんでくる。 さっきまでのとても楽しい気分が段々と暗くなっていく。 「どうしたんだい?」 いきなりヴァッシュさんに話しかけられた。 その顔はどこか心配そう。 「別に何でもないよ」 それに対しなのはは何でもない、と言うように笑いかける。 その心配させないための微笑みが他人を余計心配させることを知らずに。 ■□■□ 「お使い……ですか?」 昼飯を食べ終わり束の間の休憩を味わっていたヴァッシュはそんな言葉を発しながら士郎を見た。 士郎から告げられたことは単純明快。 午後は厨房に入らなくていいのでお使いに行ってきてくれないか?とのこと。 別段断る理由もないが、何故この忙しくなる休日の午後から? 「でも、これから忙しくなるんじゃないんですか?」 その質問に士郎は手を振り答える。 「大丈夫さ。ヴァッシュ君はこの三週間、頑張ってくれたんだ。たまには休暇をあげようと思ってな」 そこで士郎は言葉を切ると台所で桃子の手伝いをしているなのはの方を見る。 「……それに最近なのはの様子が変だろ?出来れば元気づけて欲しいんだが……」 どうやら、そっちが本命らしい。 「そういうことなら任せといて下さい!」 ヴァッシュはドンと胸を叩き、にこやかな笑みを浮かべ承諾する。 (そうと決まれば善は急げだ) 「なのは、ちょっといいかい?」 「どうしたの、ヴァッシュさん?」 いきなり呼ばれたことに少し驚きながら洗い物から顔を上げるなのは。 「店長からの指示でね。ちょっとお使いに付き合ってくれないかい?」 「別にいいですけど……」 少し戸惑った顔でなのははそう呟く。 「よし!なら早速行こうか」 威勢良くヴァッシュは立ち上がる。そして二人は休日の海鳴市に繰り出していった。 ■□■□ 「え~っと、士郎さんから頼まれたのは……と」 「出来るだけ安いのを選んで下さいね!」 「大丈夫、大丈夫」 カートを押すなのはの横で、ヴァッシュが楽しそうに、野菜や食料をカゴの中へと入れていく。 鮮やかな金髪と左腕が無いことも重なり、相当他の人に注目されているが、ヴァッシュはそんなことを気にせずにポイポイと商品を手に取る。 なのははヴァッシュに合わせカートを押して行く。 「それにしてもこのデパートっていうのは面白いねぇ」 周囲を眺めヴァッシュは感嘆の声を上げる。 「これくらいのデパートだったらどこにでもありますよ」 「そうなのかい!?いや~スゴいなぁ!僕の世界にはこういうのが無かったからね」 楽しそうに歩くヴァッシュが、なのはにはまるで子供みたいに見えた。 「それに魚なんて見たこともなかったし」 ヴァッシュがカゴに入っている魚を指差しそう言う。 「そうなんですか?」 「うん。僕の世界では海っていうもの自体が存在しなかったからね」 「それなら今度、お母さんにお魚料理作ってもらいましょう!」 「いいねぇ~」 そんな他愛もない事を話ながら二人は買い物を続けていった。 ――楽しい。 なのはは正直にそう思った。 ヴァッシュさんの笑顔を見ているだけでこちらもつられて笑ってしまう。 こうしていると本当にヴァッシュさんをあの時引き止めていて良かったと思う。 ――だが、それと同時に再びあの悩みが頭の中に浮かんでくる。 『ヴァッシュさんのことを管理局に伝えるか、伝えないか』 (ダメだよ……!ヴァッシュさんもいるのにそんなこと考えてちゃ!) せっかくの楽しい気分が台無しになってしまう。 なのははその考えを振り払おうと頭を振る。 ――でも、いいの? 心の中で声が響く。 ――このまま答えを出すのをズルズルと引き伸ばして、本当にいいの? それはもう一人の自分が語りかけているかのように感じた。 ――そ、それは……。 ――ちゃんとヴァッシュさんに聞かなくちゃダメだよ。 ――で、でも、それじゃあ、またヴァッシュさんが苦しむんだよ!そんなの見たくない! ――……そうやって逃げるの? ――え? ――それは逃げてるだけだよ。それじゃあダメ。ちゃんとヴァッシュさんに聞かなくちゃ。ヴァッシュさんは悩むかもしれない、苦しむかもしれない。だけどその苦しみを通らなくちゃヴァッシュさんは先には進めないんだよ……。 ――で、でも……。 「もしも~し、聞いてるかい?」 「ふぇ!?ど、どうしたの!?」 ヴァッシュに話しかけられなのはは思考の海から急浮上させられた。 「なんかボーっとしてたよ」 「そ、そうかな?」 「あ、もしかして疲れたのかい?だったら言ってくれればいいのに」 そう言うとヴァッシュは買い物リストと山のようなカゴの中身を見比べる。 「……うん。頼まれたものは全部あるね。んじゃ行こうか」 ヴァッシュは微笑みながらそう言いカートを押し始める。 それなりに混んでいるのにそれをものともせずにスイスイと進んでいく。 ――どうすればいいんだろう? ヴァッシュを追わずになのはは考える。 ――まるで冷静で大人な自分と会話していたかのようだった。 どちらか正しいのかは分かっている。 でも、拒否してしまう、それが逃げだと分っていても。 「お~い!迷子になっちゃうぞ~!」 ヴァッシュさんがレジに並びながらこちらに手を振っている。 なのはは陰鬱とした気分のままヴァッシュの元へと向かった。 ■□■□ 会計をすませると、ヴァッシュさんがクレープを食べないかと進めてきた。なんでも自分の世界には無い食べ物なので食べてみたいとのことだ。 「美味しいですか?」 今なのはの目の前には両手に花ならぬ、両手にクレープ状態のヴァッシュがいた。 ヴァッシュは端から見ても分かるほど美味しそうにクレープを頬張っている。 「うん!美味しいねぇ!」 (ヴァッシュさんって花より団子なタイプなんだろうなぁ) 歓声を上げるヴァッシュを見てなのははそう思った。 それから二人で他愛もない話をしながらクレープを食べていると(ヴァッシュさんは追加でもう二つ買った)いきなり後ろから声をかけられた。 「あ、やっぱりいた!」 声のした方に振り向くと馴染みのある二人の女の子がいた。 「アリサちゃん!すずかちゃん!どうしてここに?」 「ん、その子達は誰だい?」 二人がそれぞれ疑問の声を上げる。 「みんなでお出掛けしようと思ってなのはちゃんの家に電話したの。そしたら士郎さんにデパートにいるって言ってたから……」 「そうゆうこと!……でそのトンガリ頭の人は?」 「ト、トンガリ……」 初対面にも関わらず、遠慮知らずのアリサの言葉に怯むヴァッシュ。 「ダ、ダメだよ……アリサちゃん。初対面の人にそんなこと言っちゃ……あのスミマセンでした」 「にゃははは……」 アリサの言葉にすずかはまるで自分が言ったかのように謝る。 それを見てヴァッシュは苦笑する。 「いやいや気にしなくていいよ。え~とすずかにアリサ、だね。僕はヴァッシュ・ザ・スタンピード。よろしく」 「ふーん、ヴァッシュねー。変な名前」 「ア、アリサちゃん!」 「へ、変な名前……」 「で、なんでなのははこのヴァッシュって人と一緒に仲良くクレープ食べてるの?」 「あれ、前に言わなかったっけ?」 なのはは首を傾げる。 「あ、もしかして長期のバイトさん?」 すずかが思いだしたかのように手を叩く。 「あ~あの、『厨房にいる隠れ美男子』って噂になってる」 「そう!その美男子こそ僕、ヴァッ「でもそれ程でも無いわよね」」 「ア、アリサちゃん!」 「何よ。本当のことじゃない」 ヴァッシュ・ザ・スタンピード、撃沈。 どうやらヴァッシュとアリサは予想以上に相性が噛み合うらしく、痛烈な口撃でヴァッシュは攻め立てられていた。 「ヴァ、ヴァッシュさん!アリサちゃん言い過ぎだよ!」 頬を膨らませそう言うなのは。 「ほら、アリサちゃん謝らなくちゃ」 「わ、分かったわよ。すずかはうるさいんだから……」 「何か言った?」 「な、何でもない……」「ほら、早く謝らなくちゃ」 「う~ごめんなさい」 渋々といった感じでアリサが謝る。 「いや……全然気にしてないよ……うん」 それにしてもこのヴァッシュ、押されっぱなしである。 「にゃははは……」 そんな三人を見てなのはは苦笑する。 ――とても騒がしく楽しい時間が過ぎていった。 ■□■□ 「ノォ~~~!ギブ!ギブゥ!」 その光景を一言で言うのなら異常。 公園の片隅にある砂場に五、六人ほどの子供たちが群がり暴れまわっている。 それをなのはとすずかは見守ることしか出来ない。 いや、あまりの気迫に止めようという気もおきない。 その子供たちの中心にいるのは、ド派手な金髪の頭をした一人の男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードだった。 「よ~し、次は卍固めいくわよ~」 「そんなハイレベルな技どこで覚えたの……ってイタイ!イタイ!ギブ!ギブ~~~!」 ――そして、そこにはヴァッシュに対し今までにない爽やかな笑顔で関節技をかけているアリサがいた。 更にそれに続くように、他の子供たちが各々に好きな技をヴァッシュにかけている。 ――何故こんな事になったのか順を追って説明していこう。 四人はデパートの帰り道公園へと立ち寄る→なぜか、そこに居た子供たちがヴァッシュに群がり始める→最初はまとまりつくだけだったが徐々にエスカレートしていき関節技祭りに突入→見かねたアリサが仲裁に入る→ミイラ取りがミイラ。 そして今にいたっている。 めくるめく展開の早さになのはもすずかも止める暇さえなく、ヴァッシュは子供たち+アリサの玩具にされているのであった。 「どうしよう?なのはちゃん」 「う~ん、飽きるまで待つしかないのかな……」 「ヘルプミ~!」 アリサたちを止めるのを早々に諦めたなのはとすずかは近くのベンチに腰を下ろす。 何か声が聞こえたが気にしない。 ――二人とも良い判断だ。 「アリサちゃんも楽しそうだね」 元気に暴れまわるアリサを見てなのはは心の底からそう思った。 「そうだね」 すずかも相づちをうちその光景を眺める。 (ヴァッシュさんも楽しそう) 所々で本気で痛そうな声を上げているが、まぁ楽しそうだ。 それを見てなのはの顔に自然と笑みが浮かんでくる。 「良かった……」 ふいに隣にいるすずかが声を上げた。 「?何が?」 すずかの言葉の意味が分からずなのはは首を傾げる。 そんななのはを見て嬉しそうに笑いながらすずかが口を開く。 「なのはちゃんが本当に楽しそうな顔してて……」 「ふぇ?そんなことないよ、いつも楽しいよ」 「うそだよ。最近のなのはちゃん、いつも何かに悩んでるような顔してたもん。アリサちゃんなんか、ずっと心配してたんだよ」 すずかは真っ直ぐになのはの目を見て話す。 「今日みんなで遊ぼうって話になったのだって、なのはちゃんに元気になって欲しかったからなんだよ」 すずかの言葉になのはは何も言えなくなってしまう。 「だから良かった!今日のなのはちゃん本当に楽しそうだもん」 微笑みながらすずかはそう言うと、アリサとヴァッシュの方に駆けていく。 (気付かれないようにしてたんだけどな……) 本当にあの二人にはかなわないな……。 ――アリサちゃん……すずかちゃん……ありがとう……。 なのはの心に浮かぶのは感謝の気持ち。 二人には心配かけてばかり。いつもこうだ。 (ダメだよね……このままじゃ……) ――なのはは決意した。 それと同時に立ち上がりみんなが暴れている方へ走り出す。 その顔にあるのは笑顔。 ――その笑顔は見ただけで人を和ませる最高の笑顔だった。 ■□■□ 「あ~体中が痛い……」 「にゃはは……」 すっかり暗くなった公園。 そこのベンチにヴァッシュとなのはの二人は座っていた。 もう時刻は六時を回ってる。 子供たちやアリサたちも帰ってしまい、ここにいるのは二人だけ。 「それにしてもアリサは凄いねぇ。将来格闘技でもやった方がいいよ。うん」 この場に本人がいたらかかと落としの一発でも飛んできそうなことをヴァッシュが言った。 「でも、ヴァッシュさんも楽しそうだったよ」 「まぁね。こういうのも久しぶりだしね」 「久しぶり……って前にもあったんですか、こういうの?」 「うん」 ヴァッシュはさも当たり前のように肯定する。 流石に、これにはなのはも呆れてしまう。 「まったくヴァッシュさんは……」 そんななのはを見てヴァッシュは嬉しそうな笑みを浮かべる。 「……いや~良かったよ」 「何がですか?」 「なのはが元気になってくれてさ」 「え?」 「自分で気づいてなかったのかい?最近よく張り詰めたような顔してたよ」 ヴァッシュは優しく語る。 (ヴァッシュさんにもバレているとは……。私ってそんなに顔に出やすいのかな?) こうしてみると悩んでいるのを必死に隠していた自分がバカみたいだ。 なのはは苦笑する。そして苦々しい笑みはどんどん本当の笑みに変わっていく。 ――心が軽くなった気がする。 「ねぇ、ヴァッシュさん」 なのははその笑みのままヴァッシュに語りかける。 「ん、なんだい?」 「この世界は楽しいですか?」 「あぁ!とっても楽しいよ!」 ヴァッシュはなのはの問いに迷うことなく答える。 なのははそんなヴァッシュを見て、決めた。 管理局にヴァッシュのことを伝えない、と。 ――せめて……せめてヴァッシュさんの傷が――ヴァッシュさんの心にある大きな傷がが治るまでは管理局に伝えなくても良いんじゃないかな……。 なのははそう思う。 ――あんな辛そうな顔で元の世界に戻ろうとするヴァッシュさんは嫌だ……。 戻る時はせめて笑いながら、元の世界に帰って欲しい……。 だから、その笑顔を取り戻せるまでは―― なのはは決意した。 ――自分の我が儘かもしれない。 でも、ヴァッシュさんがどちらの道を選ぶにせよ苦しまないで、笑いながらその道を選べるようになるまでは、なのははヴァッシュを守ろうと決意した。 お気楽な笑みを浮かべる人間台風を眺めながら、小さな魔導師はそう決心した。 前へ 目次へ 次へ